• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2011 年度 実施状況報告書

個体の視点に基づく進化ゲーム理論の新たな展開

研究課題

研究課題/領域番号 23570026
研究機関奈良女子大学

研究代表者

高須 夫悟  奈良女子大学, 理学部, 教授 (70263423)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード個体ベースモデル / 共進化 / ゲーム理論 / 個体群動態 / 進化動態 / 国際研究者交流 / 国際情報交流
研究概要

初年度である平成23年度の研究実績の概要は以下の通りである。1)古典的進化ゲームであるタカ・ハトゲームを、点過程の拡張として個体ベースモデルとして実装した。連続空間上の2個体のなわばりの重なりを巡るゲームを確率過程として近似する手法を用いて、シミュレーション結果を解析的に表現する離散時間個体群動態モデルを導いた。また従来の先行研究で仮定されている格子空間(離散空間)上でのタカ・ハトゲームとの比較を行い、連続空間上のタカ・ハト個体ベースモデルがタカ戦略に有利となることを実証した。集団サイズ(ゼロ次モーメント)の解析的モデルの導出には成功したが、2個体ペアの集団密度(1次モーメント)のダイナミクス導出は未だ未完成であり、来年度以降の課題である。2)タカとハトの2種類の戦略をあらかじめ仮定するのではなく、なわばりの重なりを巡って闘争する連続量としての「闘争度」を各個体に割り当て、闘争度の進化動態をシミュレーションによって解析した。その結果、ある条件下において、闘争度の集団分布が単系から多型へと分岐することを見いだした。タカ戦略とハト戦略の起源に関する興味深い結果である。来年度以降より詳細な解析を行う必要がある。3)個体ベースモデルを効率的に計算する並列処理法について改良を加え、さらに効率的なシミュレーション実施を可能にした。実装方法はウェブなどを通じて一般公開する予定である。4)進化ゲームの一つである寄生者と宿主の共進化に関して理論的な解析モデルを解析し、研究成果を複数の学術雑誌に発表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究の目的はおおむね順調に達成されている。利得表の利得という抽象的な概念値ではなく、なわばりというより具体的な対象に基づくゲーム理論をアルゴリズム的に記述・実装する枠組みを組み立てた点で、初年度の目的は十分達成された考える。また、タカ戦略とハト戦略の起源と言った従来注目されてこなかった問題に取り組み、その解明にめどが立った点も十分満足が行く結果である。さらに、より効率的な並列処理方法を開発し、シミュレーション実験を効果的に進めることができた点も大きな成果である。ただ、点過程において1次モーメントダイナミクスの導出が想像以上に困難であることが判明した。来年度以降の課題である。

今後の研究の推進方策

以下の方針に従って研究に取り組む。1)一般化された点過程としての空間進化ゲームの数理的理解連続空間上の進化ゲームは個体を点と見なした点過程と見なすことができる。閉空間上の点過程では、総個体数が発散しないように個体の出生・死亡に密度効果を導入した場合、1)ペア相関関数はある関数型に収束し、2)最終的な関数型は局所密度効果が及ぶ距離と出生個体の分散距離の二つに依存することがシミュレーション実験による先行研究で明らかになっている。収束先の関数型 C∞(ξ) を仮定し、移動分散する新規出生個体と消滅する死亡個体に関して、つじつまが合うゼロ次モーメント N∞ と 1 次モーメント C∞(ξ) の関係式を導き、両者を連立させて解くことにより、与えられた個体間局所相互作用と出生移動のルールにより決まる平衡状態の点パターンの性質を評価する。2) 非マルコフ性を持った進化ゲームの数理的取り扱いの確立とシミュレーション結果との比較過去の記憶(履歴)に依存する行動といった非マルコフ的な行動は、理論的には、履歴に関する状態空間を新たに仮定することでマルコフ的に取り扱うことができる。状態空間が高次元となるため、厳密な数理的取り扱いは極めて困難であると思われるが、集団レベルの記述である各戦略の頻度を用いて単純化のための仮定(定常状態など)を設けることで、過去の履歴依存度(記憶保持時間)が定常状態における各戦略頻度に及ぼす影響を数理的に評価できる可能性がある。 こうした数理的な解析と前年度で行った非マルコフ性進化ゲームのシミュレーション結果を比較し、シミュレーション結果をよりよく理解するための数理的手法の開発に取り組む。平成23年度はより効率的な並列処理法を開発できたため、当初予定していたシミュレーション用計算機の導入を見送っため繰り越し助成金が生じた。次年度に活用する予定である。

次年度の研究費の使用計画

解析結果を国内外の学会で発表するため、また、進化ゲームの実証・理論研究に関して国際的な活動実績がある研究所・大学等に滞在し、関連する研究者と議論及び情報交換を行うための国内 旅費・外国旅費に使用する。これに関連して、シミュレーション解析を行うための計算機設備、ならびに、研究成果の印刷のためのプリンタ、ラップトップコ ンピュータ等の購入のための設備備品費として使用する計画である。次年度に繰り越す助成金は、今後見込まれる大規模シミュレーション解析のための計算機設備の導入に充てる予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2012 2011 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Modeling the maintenance of egg polymorphism in avian brood parasites and their hosts2012

    • 著者名/発表者名
      Liang W., C. Yang, B.G. Stokke, A. Antonov, F. Fossøy, J.R. Vikan, A. Moksnes, E. Røskaft, J.A. Shykoff, A.P. Møller, and F. Takasu
    • 雑誌名

      J. Evol. Biol.

      巻: 25 ページ: 916–929

    • DOI

      10.1111/j.1420-9101.2012.02484.x

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Sex roles in egg recognition and egg polymorphism in avian brood parasitism2012

    • 著者名/発表者名
      Liang W., C. Yang, A. Antonov, F. Fossøy, B.G. Stokke, A. Moksnes, E. Røskaft, J.A. Shykoff, A.P. Møller, and F. Takasu
    • 雑誌名

      Behavioral Ecology

      巻: 23 ページ: 397-402

    • DOI

      10.1093/beheco/arr203

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Development of an individual-based simulation model for the spread of citrus greening disease by the vector insect Diaphorina citri2012

    • 著者名/発表者名
      Youichi Kobori, Fugo Takasu & Yasuo Ohto
    • 雑誌名

      Zoology, Dr. Maria-Dolores Garcia (Ed.), ISBN: 978-953-51-0360-8

      巻: 1 ページ: 87-102

    • 査読あり
  • [雑誌論文] The analysis of common cuckoo's egg shape in relation to its hosts' in two geographically distant areas2011

    • 著者名/発表者名
      Bán M., Z. Barta, A. R. Muñoz, F. Takasu, H. Nakamura & C. Moskát
    • 雑誌名

      J. Zool.

      巻: 284 ページ: 77-83

    • 査読あり
  • [学会発表] 連続空間上の個体ベース個体群動態とその数理的取り扱いについて

    • 著者名/発表者名
      高須夫悟
    • 学会等名
      第21回日本数理生物学会(招待講演)
    • 発表場所
      明治大学
    • 年月日
      平成23年9月15日
  • [学会発表] 個体の視点から組み立てる個体群動態モデル

    • 著者名/発表者名
      高須夫悟
    • 学会等名
      個体群生態学会 第27回大会(招待講演)
    • 発表場所
      岡山大学
    • 年月日
      平成23年10月16日

URL: 

公開日: 2013-07-10   更新日: 2013-07-30  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi