研究課題/領域番号 |
23570026
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
高須 夫悟 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (70263423)
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キーワード | 個体ベースモデル / 共進化 / ゲーム理論 / 個体群動態 / 進化動態 / 国際研究者交流 / 国際情報交流 |
研究概要 |
平成24年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1)協力の進化に関する個体ベース進化ゲームモデルの解析:タカハトゲームや囚人のジレンマゲームなどの古典的進化ゲームを連続空間上の点過程としてシミュレートする枠組みを完成させた。各個体がそれぞれの戦略に従ってゲームを繰り返し、最終利得に比例した数の子孫を残し、新規個体は一定のルールで親から分散する過程である。親からの分散がランダムである場合の各戦略個体のダイナミクスを近似的に導いた。シミュレーション結果を定量的に予測する解析表現が得られたことは、今後パラメータの進化を議論する際の強力な武器となり得る成果である。 2)記憶を持つ個体ベース進化ゲームモデルの実装:しっぺ返し戦略のように、過去に対戦した相手を記憶し、記憶に応じて手を変える過程を実装するアルゴリズムを完成させた。様々な条件下(完全・不完全な記憶)で、協力、裏切り、しっぺ返し戦略を採用する個体数ダイナミクスを再現することができた。3つの戦略が空間的に分離して共存しうることを確認した。今後はシミュレーション結果を定量的に表す解析解の導出に取り組む。 3)点パターン解析の高次元構造に関する解析:2点から構成されるペアに注目した従来の集中度の定量化をより発展させ、3次以上の構造の定量化に取り組んだ。3つの点から構成される三角形に注目することで、点パターンの高次構造の特徴を抽出する方法を確立した。現在研究成果を論文としてとりまとめているところである。本成果は、点パターンの高次構造を定義する際の根本的枠組みを与える斬新な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的はおおむね順調に達成されている。過去の記憶に依存する非マルコフ性の過程を再現できたことは大きな成果である。今後は、研究成果を複数の論文としてとりまとめる作業に重点を置く。研究とりまとめのために十分な時間が割けることが前提である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の方針に従って研究に取り組む。 1)過去の記憶が影響する個体群動態の解析解の導出:過去の記憶が適応度に影響するという非マルコフ的な状況の取り扱いには困難が伴うと予想されるが、集団をそれぞれの記憶クラスに構造化させることで対応可能であると考えられる。シミュレーション結果の定量的予測と今後取り組むパラメータの適応的進化動態を行うためにも、解析解の導出に力を入れる予定である。 2)点パターンの高次構造の定義と評価:点パターンの高次構造の定義については一定のめどが立ち、現在論文を執筆中であるが、本研究により、2次以上の構造にはそれぞれ相互依存する関係がある可能性が浮き彫りとなった。この可能性を突き詰めると、点パターンの定量的評価に関するブレイクスルーにつながる可能性がある。点パターンの高次構造に関するインパクトのある研究に取り組む予定である。 個体の視点に基づく進化ゲームの個体群動態と点パターンの定量評価を同時に取り組むことで、本研究が目指す個体レベルの進化ゲーム理論の再構築が可能になる。最終年度はこれらの研究成果をとりまとめ、新しい研究の方向性を確立させることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度に外国人研究者を招聘し、進化ゲーム理論に関して情報交換ならびに共同研究の可能性を検討する予定であったが、先方研究者の都合により年度内の招聘が不可能となったため、未使用額が発生した。未使用額は来年度の研究費と合算して以下の目的に使用する予定である。 解析結果を国内外の学会に参加して発表して最新の研究動向を把握するため、また、進化ゲームの実証・理論研究に関して国際的な活動実績がある研究所・大学等に滞在 し、関連する研究者と議論及び情報交換を行うための国内旅費・外国旅費に使用する。これに関連して、シミュレーション解析を行 うための計算機設備等の購入のための設備備品費として使用する計画である。また、研究成果を論文としてとりまとめ、国際ジャーナルに投稿するための投稿料ならびに印刷費に充てる予定である。
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