一般に雄は多くの雌と交尾するほど多くの子供を残せるが、雌は複数の雄と交尾しても子を増やすことはできない。しかし多くの動物で雌は複数の雄と交尾する。この「雌の多回交尾」の進化は行動生態学・進化生態学の重要な研究課題である。本研究は限界の見えてきた従来の性淘汰理論による説明ではなく、産卵スケジュールや成虫寿命といった生活史形質の進化に伴う副産物として雌の多回交尾の進化を捉え、アズキゾウムシ雌の交尾回数の変異が、長期人工飼育環境下での意図せぬ淘汰によって副次的に生じたという仮説を検証する。平成25年度は前年度に引き続き野外由来の多回交尾系統と長期累代飼育を経た1回交尾系統を交雑して作った基礎個体群に対する給餌計画と産卵時期による人為淘汰実験(非給餌・初期卵選抜と給餌・後期卵選抜)を継続し、通算20回ほどの淘汰を実施することができた。最終世代での雌の再交尾率(初回交尾5日後における)は非給餌・初期卵選抜区で10%以下、給餌・後期卵選抜区で40%程度となり、生活史形質に対する人為分断淘汰が雌の交尾頻度に相関反応をもたらしたことが確認された。雌の寿命や産卵数、産卵スケジュールなどの生活史形質にも直接の応答が得られ、非給餌・初期卵選抜区では給餌・後期卵選抜区に比べて繁殖が前倒しとなり、初期産卵数の増加(後期産卵数の減少)、生涯産卵数の減少、寿命の短縮、後期卵の孵化率と後期卵から生まれた子供の羽化率の減少などの傾向が得られた。得られた膨大なデータの分析には時間を要するが、これらの結果により雌の交尾頻度が生活史形質と関連して進化するという仮説は支持されたと考えられる。
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