研究課題/領域番号 |
23570030
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
久米 篤 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20325492)
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研究分担者 |
智和 正明 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30380554)
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キーワード | ハイマツ / 霧 / 雨 / 林内雨 / 乾性降下物 / 葉面吸収 / 安定同位体 / 高山 |
研究概要 |
ハイマツ植生への霧水や乾性降下物の沈着量を評価するためには,信頼できる気象観測と現地サンプリングを連続的に実施し,高精度の化学分析を行う必要がある.今年度も,以下の3項目について継続して計画し研究活動を進めた. 1)標高2860m の立山・浄土山周辺で,降雨,霧,露,気温,日射,風向風速の連続観測を行なうことを試みた.超音波風向風速計の着雪・落雷による破壊・故障や,電気系統のトラブルがあったものの,予備の風車型風向風速計やサブシステムによって必要十分な観測を行うことができた.その結果,2012年秋の激しい紅葉の原因が,単なる気温低下による物ではなく,夏期の高温・乾燥と,9月上旬の1回の低温イベントによることが明らかになった. 2)林冠との相互作用を評価するためにハイマツ林内と林外に多数のGutter型採雨器を設置し,ハイマツ群落の有無が霧水獲得に及ぼす影響を調べた。雪解け後の7月に地形特性の異なった複数のハイマツ林において,10月まで林内雨・林外雨を連続的に採取し,定期的に採水した。さらに,既存のパッシブ型霧採取器によって霧水を採取し,風向風速や濡れ時間,湿度,降雨の情報と統合することで,地表面への霧水沈着量を評価した。これらの採水量と,通常の転倒マス雨量計の結果を比較することで,通常の降雨量データと,実際に植生上に供給される水量の違いを明らかにした。 3)採水したサンプルについてはイオンクロマトグラフを用いて陽イオン成分や窒素含有量を測定し,林外雨・林内雨,霧水雨水と比較した.また一部のサンプルについてはSr同位体の分析を行い,林冠における供給-濃縮過程を明らかにした。ハイマツは大気から高い割合で窒素成分を吸収すると同時に,ミネラル成分,特に黄砂成分を針葉表面から吸収していることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)気象環境計測:前年度の秋に設置した超音波風速計が,冬期間に着雪の落雷,突風によって物理的に破壊されてしまった.そのため,故障箇所の究明,機器の回収と修理のため,今年度は全く測定ができなかった.一方,予備系統の観測機器によって,最低限必要な観測データを得ることができた. 2)林冠との相互作用:順調に観測できた.オーバーフローなどのトラブルもほとんど起こらなかった. 3)化学分析:老朽化したイオンクロマトグラフが再度,故障し,採取したサンプルの分析が滞った.一方,同位体分析については順調に作業が進み,予想以上の成果が得られた. 4)研究発表:これまでの成果は,順調に論文発表できている.今年度の結果も,次年度には論文化できる見込みである.
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今後の研究の推進方策 |
1)次年度は,気象観測の安定稼働に全力を尽くす.超音波風速計の安定稼働と電力供給能力については,現在,改善策を準備中であり,連携研究者である富山大学の青木一真准教授と協議しながら作業を進めている. 2)ハイマツ樹冠との相互作用に関わる現地での水サンプリング作業は,今年度で一区切りとして,次年度は行わない.その成果については今年度,学会や研究会で発表しており,次年度中に投稿予定である. 3)未分析の水試料がまだ残っているため,その分析処理を行う.老朽化した分析機器については引き続き別途予算申請して,更新できるよう努める.
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次年度の研究費の使用計画 |
主に,立山・浄土山までの旅費・調査費に使用予定で,残りは観測機器や分析機器の消耗品台,論文出版費用に充てる予定である.
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