種多様性の緯度勾配の説明として,熱帯は種分化が速いとする仮説が注目されている.しかし,なぜ熱帯は種分化が速いかに関するコンセンサスはない.申請者は,低緯度ほど性淘汰が強いために,種分化が促進されるのではないかと考えている.性淘汰の緯度勾配は,高緯度ほど繁殖可能メスの出現が季節的に集中することで生じうる.本研究は,メダカ属魚類をモデルに,産卵可能メスの出現の季節的集中度を,温帯から熱帯にかけて緯度の異なる種間/集団間で比較することを最終的な目標とする.本年度は,青森(青森市桑原)に調査定点を設置して定量採集を行い,集団中の産卵可能メス割合の季節変化パターンを求めた.各採集時点における産卵可能メスの割合は,室内で飼育維持されている成熟オスと個別に番わせることで,実際に産卵が見られるかどうかで判定した.その結果,産卵可能なメスの出現は5月から7月の2ヶ月間に限られていることがわかった.また,室内で飼育維持されている成熟メスと番わせることで,採集したオスの成熟の有無の判定も行ったところ,繁殖可能なオスの出現もこの時期に集中していることが示された.さらに,実効性比の季節変化についての解析から,青森集団では,沖縄集団に比べて,実効性比の偏りが小さいことが明らかとなり,青森集団の方が性淘汰圧が弱いことが示唆された.また,12月には,インドネシア・スラウェシ島に生息する熱帯産のメダカ属数種を対象に,繁殖可能個体の有無を調べた.その結果,温帯では真冬にあたる12月においても,ほとんどの種のメスが繁殖可能であることがわかった.これは,熱帯のメダカは繁殖における季節性が非常に小さく,年中実効性比がオスに偏っていることを示唆している.
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