研究課題/領域番号 |
23570034
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
江副 日出夫 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (90275230)
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キーワード | 数理モデル / 相利 / 寄生 / facilitation / 格子モデル |
研究概要 |
多様な共生系のダイナミクスを明らかにするため、前年度に引き続き、以下の3つの小課題に関して理論的研究を進めた。 1. 1個体の宿主個体と、潜在的に複数の共生者個体の間の非対称な相利共生(1対多相利共生)の進化的安定性。23年度に投稿した論文は査読と改訂を経て24年度に国際学術雑誌に掲載され、また24年8月のアメリカ生態学会大会においても口頭発表を行った。24年度はこのモデルを拡張して宿主側の進化を考慮した共進化モデルを構築し、主としてコンピュータシミュレーションの手法を用いて解析した。その結果、従来の理論研究とは異なり相利共生は比較的容易に進化的に安定に維持されうるが、ただし純粋な相利共生関係が維持される場合はむしろ少なく、しばしば寄生者が共存しうるということが明らかになった。生態学会大会において発表を行い、論文を現在投稿準備中である。 2. 空間構造をもつ相利共生の安定性。空間構造のある2種の生物の個体群の間で相利共生の個体群動態を調べた。各々の片方の種の非相利共生者の絶滅が、もう片方の種における相利共生者の絶滅を引き起こす場合があるという、逆説的な結果を明らかにした。論文を24年度に国際学術雑誌に投稿した(現在印刷中)。 3. 2種の植物種間の正および負の相互作用が群集動態に及ぼす影響を格子モデルを用いて解析した。不適な環境条件下(実生の定着率が低い)においては、正の相互作用の効果が卓越し、種が共存するのに対して、好適な環境条件下では負の相互作用の効果が卓越し、競争排除が起こるという結果を導いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」でも述べたように、小課題1に関しては1本の論文が国際学術雑誌に掲載され、さらにあと1本の論文を投稿準備中である。また小課題2に関しては論文1本の国際学術雑誌への掲載が決定しており、さらに小課題3に関しても論文1本を投稿準備中である。23年度に本研究費で導入したシミュレーション用パーソナルコンピュータとインテル社製C言語コンパイラを引き続き使用することで、大きな計算能力を必要とするシミュレーションを多数回実行することができた。また、数学ソフトを使用した解析を行うためのパーソナルコンピュータは、当初から予定している高性能の機種が24年度中も未発売のままの状態だったが、シミュレーションのデータ量の増大にしたがってそれまで使用していた機種の解析能力が不足してきたので、とりあえず安価ではあるが最新の機種を導入することにし、問題はある程度解消された。それ以外にも、当初の研究目的とは具体的な細部が異なる部分もあるが、総体的には、研究テーマに沿って予定していた達成度とほぼ同等の達成度が得られたと結論する。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」で述べた小課題1に関しては、現在投稿準備中の論文を完成させるとともに、実際の系における直接的な検証可能性を目指し、一対多相利共生系の中でも特に種子捕食送粉系に関するより現実的な共進化モデルを構築して解析する予定である。また3に関しては、植物の進化動態を考慮し、現実に観察されるパターンをよりよく説明できる数理モデルを構築して解析する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度分は、当初計画にあった数学解析用パーソナルコンピュータ(新型Mac Pro)が24年度中も未発売のため、とりあえず安価な代替機種を購入したものの、23年度からの繰越金の大半が引き続き繰越となっている。しかし製造元が25年度中の発売を明言しているので、遅くとも今年度前半には導入を予定しており、本体45万円程度、付属機器で数万円程度の支出を想定している。それ以外にシミュレーション用のパーソナルコンピュータも新型機種を2台程度追加購入する予定である(各8万円、計16万円程度)。また、25年8月にはロンドンにおいて国際生態学会(INTECOL)での発表を予定しており、海外旅費として40万円程度を想定している。また他に国内学会での発表のための国内旅費の支出として12万円程度を予定している。
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