研究課題/領域番号 |
23570035
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
石原 道博 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315966)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 休眠 / 休眠のコスト / イタチハギマメゾウムシ / 種子 / 緯度 / 生活史形質 / キアゲハ |
研究概要 |
キアゲハとイタチハギマメゾウムシを用いて、休眠世代と非休眠世代との間で、生活史形質を比較することで、休眠のコストが存在するかを調べた。その結果、休眠世代のメス成虫は、非休眠世代に比べて体サイズが小さいだけでなく、産卵数も少ないことを明らかにした。また休眠世代のオスと交配したメス成虫は休眠経験の有無にかかわらず、産卵数が非休眠世代のオスと交配したメスよりも有意に産卵数が少なかった。この結果はイタチハギマメゾウムシに休眠のコストが存在することを示した。一方、キアゲハでは、休眠世代成虫の体サイズが非休眠世代よりも小さいながらも、休眠の長さそのものは、蛹重量を減らすものの、体サイズや産卵数に影響しなかった。これらの結果は、昆虫種により休眠のコストの大きさが異なることを示唆している。 さらにイタチハギマメゾウムシを用いて、越冬する緯度と幼虫が利用する種子サイズによって休眠のコストが異なるかについても調べた。高緯度個体群と低緯度個体群に由来するメス成虫に産ませた卵を様々な重量の種子に移植し、短日条件下で休眠を誘導させた。それらの休眠個体を冬の前に再び高緯度と低緯度の採集地に戻し、野外で越冬させた。翌春に再びそれらを回収し、実験条件下で成虫を羽化させた。その結果、冬季死亡率と体サイズは種子重量のみに影響され、その他の要因には有意な効果はなかった。しかし、産卵数は越冬地と体サイズに強く影響を受けた。体サイズが大きいほど、産卵数は増加した。また体サイズの効果を補正しても、高緯度に導入された個体は低緯度に導入された個体に比べて、産卵数が有意に減少していた。これらの結果は、高緯度で小さい種子しか利用できない場合には、休眠のコストが大きくなることを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
イタチハギマメゾウムシに休眠のコストが存在することを明らかにしただけでなく、その休眠のコストは越冬する緯度と幼虫が利用する寄主植物の種子サイズに影響されることも明らかにした。イタチハギマメゾウムシは外来種であるため、日本に定着するうえで、日本の季節環境に適応する必要がある。イタチハギマメゾウムシは高緯度では大きな種子をつける寄主植物群落でしか定着が確認されていない。これは高緯度では冬が厳しいため、休眠のコストが大きくなり、そのコストを補うためには、大きな種子を幼虫が利用する必要があるためと考えられる。この結果は、外来種の定着に休眠のコストが関与していることを世界で初めて示したものである。
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今後の研究の推進方策 |
イタチハギマメゾウムシでは休眠のコストが明確に示されたが、キアゲハでは明確ではなかった。この違いは昆虫種によって、休眠のコストの顕在の仕方が異なることを示唆している。この違いを明らかにするためには、より詳細に休眠世代と非休眠世代の形質を比較していく必要がある。特に休眠世代と非休眠世代との間に形質の違いが見られる場合には、その違いが野外でも見られるかどうか、あるいはその違いに季節多型や表現型可塑性のような適応的意義があるかどうかを調べる必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
各昆虫種が自生する調査地での野外観察を行うため、研究費の調査旅費としての使用を計画している。高緯度ほど休眠のコストは大きくなる、あるいは温度環境が厳しくなると考えられるので、これらの野外観察は同種の緯度が異なる個体群についても行う予定である。同時に飼育実験も行うため、プラスチック容器等の飼育器具および飼育員の雇用のための謝金にも使用する。 採集した昆虫の形態測定にはコンピューターによる画像解析が伴う。それだけでなく、得られたデータの統計解析にもコンピューターが必要である。このため、これらの用途に十分に対応できる最新の高性能パソコンを1台と画像解析ソフト一式を購入する予定である。また、国際会議における研究成果の発表のために外国旅費での使用も計画している。
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