研究課題/領域番号 |
23570035
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
石原 道博 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315966)
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キーワード | 休眠 / 生活史形質 / 季節型 / 緯度クライン / 表現型可塑性 / 体温調節 / キアゲハ |
研究概要 |
これまでの昆虫の休眠についての研究は、ほとんどが冬などの過酷な季節における生存率の向上など休眠の利益ばかりに注目していて、休眠が休眠後の形質に及ぼす負の影響や、休眠とその後の形質とのリンクについては重要でありながらもあまり目を向けてこなかった。本研究では多化性のキアゲハを用いて、非休眠世代と休眠世代の休眠後の形質を比較することで、生活史における休眠の正の効果と負の効果を相対的に評価し、生活史の進化における休眠からの制約を明らかにしようとした。 飼育実験の結果、キアゲハでは休眠は短日条件で蛹で誘導されたが、50%の個体が休眠に入る臨界日長は12~13時間であった。休眠に入った蛹は、20日以上の低温処理と長日条件によって休眠が覚醒された。休眠を経験して羽化した成虫は春型になり、休眠を経験せずに羽化した成虫は夏型になった。 春型は夏型より体サイズが小さかったが、その違いは高緯度ほど小さくなることが、様々な緯度で採集した個体を比較することによって明らかにされた。しかし、この傾向には、津軽海峡による遺伝子流動の分断によって、津軽海峡でズレが生じている可能性が示唆された。なぜならば、津軽海峡を挟んだ同緯度の個体群を実験的に比較した場合、春型と夏型の間に見られる体サイズの可塑性に個体群間で違いが見られたからだ。 また、春型と夏型の間には形態以外にも体温調節という点で生理的な違いが見られた。実験的に春型個体とは夏型個体を冷却し、その後に加温すると、春型は夏型よりも体温上昇が速く、飛翔が可能になるまでの時間が短かかった。春型は夏型よりも出現時期の外気温が低いので、このような春型の生理的特徴は適応的であると考えられる。このようにキアゲハでは、休眠はその後の形質と密接にリンクしていることからも、休眠は生活史の進化における制約となっていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は主にイタチハギマメゾウムシを用いて、休眠のコストが存在することについて明らかにした。一方、キアゲハでは、休眠のコストが検出できなかった。そこで、キアゲハでは休眠がその後の形質に正の効果を及ぼしている可能性を考えて、季節型である春型と夏型の違いに注目した研究を行い、休眠の経験と季節型との密接な関係について明らかにした。この結果は休眠がその後の形質に及ぼす影響が昆虫種によって異なることを明らかにしたことで、当初の研究の目的はおおむね達成していると言える。あとは、休眠がその後の形質にコストとなる昆虫の場合に、休眠期間が長くなるほどその負の効果がより大きくなるかを明らかにすることが残されている。
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今後の研究の推進方策 |
休眠のコストが明確に示されたイタチハギマメゾウムシで、休眠期間が長くなるほどその負の効果がより大きくなるかを明らかにする。また、キアゲハでは休眠経験の有無と季節型に密接な関係があることから、季節型に適応的意義がある可能性についてさらに追求していく必要がある。春型と夏型の色彩の違いは体温調節のためなのか、あるいは捕食者回避のためなのかを実験的に調べる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
野外観察や野外実験によりキアゲハの季節型の適応的意義を明らかにするために、研究費の調査旅費としての使用を計画している。同時に飼育実験も行うため、プラスチック容器等の飼育器具など消耗品を購入する。また、昆虫の生活史研究の国際的権威であるCharles W. Foxを招聘し、得られた成果についての検討を行う予定であり、そのための外国旅費としての使用も計画している。
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