研究課題/領域番号 |
23570040
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研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
田中 嘉成 独立行政法人国立環境研究所, 環境リスク研究センター, 室長 (60338647)
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研究分担者 |
吉野 正史 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00145658)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 生態系機能 / 群集生態学 / 機能形質 / 環境応答 / 生態影響評価 |
研究概要 |
環境変化に対する生物群集の応答を、種形質の分布変化として捉える数理モデルを開発するためには、食うものと食われるものの関係に代表される種間相互作用を形質動態のモデル化の過程でどう処理するか、さらに多種系の食物網モデルをどう組み込んでいくかが課題である。研究開始年である平成23年度は、共同研究者の吉野博士と意見交換や打ち合わせを頻繁におこない、さらに、数理生態学の先端的情報を収集するために、数理生態学者を中心とした研究集会「生態系の数学的研究に向けて」を広島大学において平成24年2月に開催した。その結果、生物群集内での形質動態のモデル化のためには、通常の連立ロトカボルテラモデルより、レプリケータ力学系の定式化に立脚させた方が簡単に解が導き出せることが判明した。レプリケータ力学系は、群集内の総バイオマスを一定と置いていることから、種の相対的頻度と、群集の総バイオマスの動態を別次元で表現できる。ことのことにより、簡明でより直観的な数式の形によって、生物群集内の形質動態を記述できると期待される。 3種系の相互作用を組み込んだ群集モデルの安定性に対する、形質進化(中間段階種の対捕食形質)の影響を、数学的解析および数値シミュレーションによって解析した。その結果、形質の進化は、種間の生態学的な律動との相互作用によって、長周期の変動をもたらすことがわかっていたが、それは、進化速度と群集の個体群動態との相対的速度によって大きな影響を受けることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果を、国際的学術誌に発表することができた。その段階で、当初の計画段階で予定していた方向性と少し違いが出てきた。当初は解析解によるモデル化は困難であることから、ランダム群集を仮定したコンピュータシミュレーションによる一般的な結果の導出に力点があったが、実際にはレプリケータ力学系の導入による計算へと進展した。数値解析にはやや遅れが生じたが、モデル化の新展開が相殺したため、研究全体としては、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のテーマは当該研究分野において先行研究がまだ比較的少なく、数学的手法も確立していない。これまで、本研究の代表者は、多種系のロトカボルテラモデルや、資源消費型種間競争モデルなどの古典的な群集生態学モデルを基礎に、群集内の形質動態の一般側を導出する試みを行ってきた。今後は、レプリケータ力学系やテプリツ作用素の応用など、当該研究分野でこれまで適用されてこなかった数学的手法も試みたい。また、数値シミュレーションによる解析も行い、数理モデルの知見を検証し、補完する作業にも力点を置きたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
数理生態学や量的遺伝学を専門とする研究代表者と基礎数学を専門とする共同研究者の吉野が、問題意識を共有し、お互いのアプローチや手法を十分理解しながら共同研究を推進するためには、口頭による打ち合わせを頻繁に行うことが必要である。平成24年度は昨年度に引き続き、研究打ち合わせや成果発表などに比較的多くの資金を使いたい。また、数値計算の速度を向上させるための、ワークステーション用メモリ(DRAM)の購入も予定している。その他、機器類、備品類の購入は予定していない。
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