研究課題/領域番号 |
23570040
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研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
田中 嘉成 独立行政法人国立環境研究所, 環境リスク研究センター, 室長 (60338647)
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研究分担者 |
吉野 正史 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00145658)
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キーワード | 群集生態学 / 機能形質 / 生態系機能 / ロトカボルテラモデル / 環境応答 |
研究概要 |
環境変化に対する生物群集の応答を、機能形質の群集内分布変化として表わす数理モデルを開発するために、生物群集動態の古典的理論である一般ロトカボルテラ方程式を、レプリケータ力学系の形式に変形した。このことにより、群集内の種の相対頻度の動態と、総個体数の動態を別の動態式で表現でき、群集内の形質分布を表現するうえで、ロトカボルテラ系より簡便であることが分かった。群集の平均形質値の変化率を計算した。種頻度による種形質の加重平均値を群集の平均形質値Zとすると、その時間変化は次式で表わされることを導いた。 dZ/dt = Cov(z,r)- NCov(z,a) ここで、Cov(z,r) は種形質zと種の内的自然増加率の共分散、Cov(z,a) は種形質と種の競争能力a(値が小さいほど種間競争に強い)の共分散、N は群集内の総個体数である。この式は、群集内の形質変化は、群集の総個体数が少なくて密度非依存的であり種間競争も重要でないときは、内的自然増加率と形質との共分散によって決まり、群集内の総個体数が多くなり、種間競争が重要になった場合、種間競争能力との共分散によって制約されることを示している。 さらに、群集を構成する各種の個体群動態に環境の確率性が存在するとき、上記の決定論的モデルがどのように影響されるかを計算している。環境変化に対する群集応答が、環境確率性によって影響される大きさを計算するために、群集の多種個体群動態を、平衡値の変化と平衡値からの偏差に分解し、後者に関しては局所的な線形化を行ってから、形質動態式を作成する試みを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、生物群集の環境変化に対する応答を、種の特性(機能形質)の分布変化として表わす理論を、数理生態学の枠組みによって形成することであある。そのため、一般ロトカボルテラモデルに基づいて、形質動態の基本式を作成することができた。環境確率性を形質動態の方程式に組み込む準備として、群集行列を固有ベクトルによって分解する手法や、局所線形化する方法、確率的な拡散(種の個体数変動)を解析する拡散近似に関する情報を収集、理解を深めることができた。 種間相互作用に影響を与える形質の進化が、生物群集の動的な安定性や周期的変動性に与える影響に関しても、数理モデルによる研究と数値シミュレーションによる結果を加えることができた。多くの課題(特に確率性を解析的に扱えるかどうかに関して)を残しているものの、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方法として、数理モデルに対する数学的な解析と、群集や形質分布の統計量で表わされたモデルに対する数値シミュレーションによる検証の2方向が考えられる。前者に関しては、多種系のロトカボルテラモデルや、資源消費型種間競争モデルなどの古典的な群集生態学モデルを基礎に、群集内の形質動態の一般側を導出し、確率的な環境変動を加えた動態式の開発を試みる。今後は、レプリケータ力学系やテプリツ作用素の応用など、当該研究分野でこれまで適用されてこなかった数学的手法も試みたい。また、後者の数値シミュレーションに関しては、形質動態の基本式が、群集の成立過程における確率性があった時にどの程度成立するか検証する。近似的な中立群集においても、形質動態の決定論モデルが成立することを示し、生物群集の確率的な中立理論と決定論的なニッチ理論が矛盾しない条件を明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
数理生態学や量的遺伝学を専門とする研究代表者と基礎数学を専門とする共同研究者の吉野が、問題意識を共有し、お互いのアプローチや手法を十分理解しながら共同研究を推進するためには、口頭による打ち合わせを頻繁に行うことが必要である。平成25年度は昨年度に引き続き、研究打ち合わせや成果発表などに比較的多くの資金を使いたい。
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