研究課題/領域番号 |
23570042
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 亮一 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (20311516)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | クロロフィル |
研究概要 |
クロロフィル分解は植物の老化やストレス応答に必須な、重要なプロセスである。本研究では遺伝学的手法や分子生物学的手法を用いて、複数のクロロフィル分解経路が植物に存在する可能性を検討し、クロロフィル分解経路の全体像を明らかにすることを目的としている。本研究では、クロロフィル分解に関わると考えられる酵素のうち、特にchlorophyllase (CLH)に焦点をあてた。なぜなら、この酵素はin vitroで強いクロロフィル分解活性が見られるにも関わらず、in vivoでのクロロフィル分解への関与について、明快な証拠が提示されていないからである。 本研究では、まず、CLHの2つのisoform, CLH1, CLH2にyellow fluorescent protein (YFP)のタグをつけて、シロイヌナズナで発現した。どちらのタグも、葉緑体の内部には観察されず、液胞膜、ないしはendoplasmic reticulumと思われる場所に観察された。また、Sucrose密度勾配遠心による細胞分画法によって、葉緑体や液胞膜、細胞膜、小胞膜を分画したところ、CLH1は液胞膜、小胞膜に存在することが確認された。CLH2の発現量は少なく、抗体では確認することができなかった。 また、CLH1またはCLH2を欠損するシロイヌナズナの変異株、およびCLH1とCLH2の両方を欠損する変異株で、老化時のクロロフィルの減衰を調べたが、野生型との差は見られなかった。さらに、メチルジャスモン酸によって、CLH1の発現を誘導した場合でも変異株と野生株の間でクロロフィルの減衰に差は見られなかった。これらの結果から、CLHがもし、クロロフィル分解に関与するとすれば、それは、葉緑体外で、老化以外のときにおこるクロロフィル分解経路が存在すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した記入計画では、平成23年度は、(1) CLH-GFP融合タンパク質の細胞内局在の解析、(2) 細胞分画法および免疫電顕によるCLHタンパク質の細胞内局在の解析、(3) clh変異体の解析とその他のクロロフィル分解の変異体とのかけあわせを計画していた。このうち、(1)のCLH-GFP融合タンパク質の細胞内局在の解析はほぼ計画通り進行し、CLH-GFPの局在が主に液胞膜と小胞膜であることが明らかとなった。(2)の計画については、免疫電顕法の方が、電子顕微鏡の故障、および修理のために計画の進行が若干遅れたた。また、免疫電顕法に関しては、非特異なシグナルも観察されている。平成24年度は、電子顕微鏡用のサンプル作成、検証、抗体反応の実験に関して予算を使用する予定である。一方、細胞分画法については、順調に実験がすすみ、やはりCLHが液胞膜と小胞膜に存在することが明らかとなった。また、(3)の計画については、clh変異体の解析は現在のところ順調に進んでおり、clhとフェオフィチナーゼ変異体とのかけあわせも順調に進行している。よって、総合的に判断して、免疫電顕法以外の研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
電子顕微鏡の故障、および修理のために計画の進行が若干遅れたために、平成23年度に未使用額が発生した。さらに、免疫電顕法では、非特異なシグナルが検出されており、この部分の実験は現在、試行錯誤をしているところである。免疫電顕法は抗体と抗原の質によって、その成功が大きく左右される。本研究で用いたCLH抗体は、比較的特異性の高いものであったが、完全に非特異な結合を防ぐことができていない。今後は、免疫電顕試料の包埋方法、固定方法の検討を進めて行く予定である。また、同時に、CLH-GFPの発現形質転換植物を試料として用いることによって、GFP抗体を使用しての免疫電顕も計画している。これまでとは異なる抗体を用いることによって、非特異なシグナルを大幅に減少されられるのではないかと期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、前年度の未使用額を電子顕微鏡関連の試薬に使用したいと考えている。とくに、免疫電顕の検討のために固定、包埋に関する新たな試薬を購入したいと考えている。さらに、いくつかの条件で植物の試料を用意するために、植物の育成に必要な品目の購入、また、CLH-GFP発現植物の確認のために分子生物学や色素測定、蛍光観察のための試薬や消耗品の購入も必要である。
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