研究課題/領域番号 |
23570054
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
金丸 研吾 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90260025)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 5-アミノレブリン酸 / ストレス応答 |
研究概要 |
植物において5-アミノレブリン酸は葉緑体におけるテトラピロール合成経路の中間基質であり,植物の葉や根に水溶液を投与すると,クロロフィル量の増加,光合成能の増強、硝酸還元酵素等の活性上昇,環境ストレス耐性の向上など多様な生理活性が惹起される。しかし環境ストレス耐性の向上は現象論の域にとどまっており,分子機構は不明である。そこで,ALAによって塩ストレス耐性が向上し,かつ塩ストレス応答遺伝子が多数知られるトマトで,ALA誘導性遺伝子を探索後,シロイヌナズナにおけるホモログ遺伝子のALA応答性の検証,効果的な耐塩性向上法の検討を行い,ALAによる塩ストレス耐性向上の分子機構のモデル提唱を目指した。トマトへのALA投与によって塩ストレス応答性の2つの遺伝子発現が投与2時間後をピークに上昇した。そこでシロイヌナズナのホモログ遺伝子について調べたところ,一方のホモローグはいずれもALA応答性を示さなかった。しかし,他方の転写因子と相同性のもののうちのひとつが応答性を示した。また塩ストレス下での発芽率と生存率が,ALA処理方法を工夫することで顕著に上昇した。このときクロロフィル量は増加せず,先述の転写因子は転写量が5倍に増加した。これらを含む結果から、ALA投与による塩ストレス耐性向上効果のモデルとして,(1)クロロフィル合成の促進は必須ではない,(2)ALA等によって発生するROSをシグナルに抗酸化酵素が発現,活性化する,(3)ALAが直接的に特定の酵素を活性化する,機構を提唱した。これは今後,ALAの分子機能解析と塩害土壌への応用を進める上で意義ある成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H22秋の当該研究申請時にALA研究に携わり,かつH23年度も戦力となるはずであった3名の学生のうち,当方の院試に合格していたB4は家庭の事情で他大学への進学を選択し,M1のうち1名は健康上の問題から採択通知を受けた頃から休学状態となり(H23秋に退学),もうひとりのM2も就職活動が修士論文執筆時期のH24.1まで長期化した。そのため今年度は極度の人員不足に苦心することとなり,当初計画していた精製タンパク質をもちいた生化学実験などスキルとまとまった時間が必要な研究よりも,細切れ時間で経験値が低くても可能な定量PCRとフィーディング実験に軸足を置くことで打開を図った。その甲斐あって,この困難な状況下において当初計画に対しての遅れはあるもののも,研究費を最大限に活用することで,ALA誘導性転写因子のひとつやALA効果を発揮させやすい処理方法で進展があったのは大きな成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
H23年度に同定したALA誘導性転写因子については,シロイヌナズナで組織特異性や発達段階,ALA濃度や与え方との相関性を明らかにしていく。一方,効果的なALA処理方法についてもALA濃度,光条件などを変えて最適化を進めつつ,硝酸還元酵素,ヘムオキシゲナーゼなど各種酵素活性や遺伝子発現量を調べ,ALAの分子効果について掘り下げた知見を得る。そして当該年度に実施できなかった精製14-3-3タンパク質を用いて,ALAの硝酸還元酵素に対する直接的効果の検証を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当年度途中から人員不足を補うために学部生を研究補助員として雇用し,3月分支払いが翌月になることから3月末では繰越金があるようにみえるが,実質的には端数の数円が繰越金となる程度である。次年度は消耗品の他に,少額備品として光量と光質の違いによるALA応答性の違いを解析するため,LEDユニットを複数購入する。H24度も引き続き人員不足の状態が続くため,研究補助員(学部生)や技術補佐員の雇用費の一部に充てる。また年末以降の学会で成果発表を積極的に行うための旅費に充当する。
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