研究課題/領域番号 |
23570054
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
金丸 研吾 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90260025)
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キーワード | 5-アミノレブリン酸 / 環境ストレス応答 / 遺伝子発現 |
研究概要 |
テトラピロール代謝経路の中間基質である5-アミノレブリン酸(ALA)を植物に投与すると、本経路の代謝産物であるクロロフィルやヘムが増加するが,比較的高濃度のALAを植物にあらかじめ投与しておくと、塩ストレス等への耐性向上に効果があることが明らかになった。後者は、ALAが細胞内の抗酸化酵素の活性を向上させることが、ストレス耐性の向上をもたらす要因の1つとして考えられるが,外生のALAが核遺伝子発現の調節にどう関わるかは十分分かっていない。そこで,外生のALAがテトラピロール代謝経路、活性酸素消去系、ストレス応答系遺伝子群の発現に与える影響を調べた。その結果,テトラピロール代謝経路のクロロフィルおよびヘムの合成に関わる遺伝子群の発現が,ALA投与後,非常に早い時間で誘導されることが分かった。また、低濃度のALAを投与すると、APX、Prxといった活性酸素消去系遺伝子の発現が上昇し、活性酸素の蓄積を抑制する効果をもたらすのに対して、高濃度のALAでは,ストレス応答に関わる遺伝子群が顕著に発現変動を示すことが分かった。これらのデータは、外から与えたALAによる濃度依存的な生理活性の違いについて遺伝子発現レベルで異なる制御の存在を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ALAの環境ストレス応答を向上する新規機能の分子機構のなかでも,ALAを予め投与しておくことで塩ストレスが向上する現象については全く分子機構の解明が進んでいない。その現状において,我々はテトラピロール代謝経路、活性酸素消去系、ストレス応答系遺伝子群の発現が変動することのみならず,濃度依存的に異なるパターンで変化するという発見をした点において,まず計画以上に進展していると評価する。すなわちテトラピロール代謝経路のクロロフィルおよびヘムの合成に関わる遺伝子群の発現は,ALA投与後,非常に早い時間で誘導され,低濃度のALAで、APX、Prxといった活性酸素消去系遺伝子の発現が上昇し、活性酸素の蓄積抑制効果をもたらしうるのに対して、高濃度のALAでは,ストレス応答に関わる遺伝子群が顕著に発現変動を示した。また2つめの評価ポイントはALA誘導性転写因子AtRAP2.6の同定とその発現制御の解析結果である。トマトの塩・ALA誘導性JERF1のホモログとして着目したAtRAP2.6は外生のALAによって惹起されるだけでなく,内生ALAを高蓄積する変異体やレブリン酸の添加によるALA以降の代謝阻害,そして塩ストレスでそれぞれ高発現することを確認し,ALA誘導性転写因子として初めて同定に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
濃度の違う外生ALAを与えた際のテトラピロール代謝経路の遺伝子発現と代謝物の挙動にどの程度の一致性,時間的ラグ,変動幅の相違があるかをHPLC解析する。またALAの予防的処理をした植物としない植物に塩ストレスを与えた際の遺伝子発現パターンの違いを観察する。またこのとき活性酸素の発生量に違いがあるかどうかをNBT染色,DAB染色で検証,硝酸還元酵素活性,ヘム活性を常法に従って測定・比較する。一方,AtRAP2.6についてはすでにノックアウト変異体を確立しており,この株で外生ALAを与えた遺伝子発現パターンの解析を進める。また外生ALAを細胞内や葉緑体内に取り込む機構(=トランスポーター)は薬剤排出ポンプなどと同様,ALAの農業分野での効果的施肥法を開発する上で,重要なポイントである。すでに我々は動物においてALA輸送活性をもつことが報告されている膜タンパク質のホモローグ検索とそのノックアウト変異株の確立を進めており,ALA取り込み活性が低下した事による遺伝子発現レベルでのALA応答性の低下,ならびに高濃度ALA投与時の光障害の低減を指標にALA輸送活性をもつトランスポーターの同定を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
B-Aの5000円については会計の処理が終わらなかったためであり,執行(購入)自体は年度内に全て行っている。次年度(H25年度)は最終年度であり,引き続き消耗品等の購入,謝金,成果発表(旅費,別刷り)に充当する。
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