研究課題/領域番号 |
23570056
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
岩野 恵 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (50160130)
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キーワード | アブラナ科植物 / EDX / 和合受粉 / Clイオン / Kイオン |
研究概要 |
被子植物は、昆虫や風などを介して雌ずいに運ばれてくる様々な花粉の中から適切な交配相手を選択する機構を発達させている。アブラナ科植物では、雌ずい先端の乳頭細胞に異種の花粉が受粉した場合には、花粉の吸水・発芽が阻害され、受精が成立しない(種間不和合性)。また、同種でも自家花粉が受粉した場合にも、花粉の吸水・発芽が阻害され、受精が成立しない(自家不和合性)。これに対し、同種他家(和合)の花粉が受粉した場合には、花粉は吸水・発芽し、花粉管は乳頭細胞に侵入し、雌ずいを伸長、胚珠に到達して受精に至る。申請者はこれまでに、アブラナ科植物の花粉が、同種の雌ずいに対してその花粉の受入に必要な一連の生理反応を誘導する何らかの因子(「和合シグナル」と呼ぶ)を保持している可能性を見いだしてきた。この「和合シグナル」は、種間不和合性の機構を解明する上で鍵を握ると予測されるが、その実体については全く未解明である。本研究では、「和合シグナル」の実体を解明すること、そのシグナルにより乳頭細胞内に誘起される情報伝達系を解明することを目的として、生化学的、分子生物学的、遺伝学的解析を計画している。平成24年度は、「和合シグナル」下流情報伝達系の生理学的・分子生物学的解析を目的として、EDX/SEMによるシロイヌナズナ受粉過程の元素分析とマイクロダイセクション・マイクロアレイ解析による乳頭細胞特異的発現遺伝子の同定を行なった。その結果、シロイヌナズナの和合受粉時には乳頭細胞から花粉への水の供給とともに、様々なイオンが供給されることが明らかになった。そこで、乳頭細胞特異的発現遺伝子の中からこれらのイオン輸送体の候補遺伝子を探索し、遺伝子破壊株を用いて機能解析を行なった。その結果、和合受粉時に機能する遺伝子候補が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は和合シグナルにより誘起される情報伝達系の解明を中心に進めた。その結果以下の2つの成果が得られ、順調な計画の進展が見込めた。 1)申請者はこれまでに独自の蛍光色素によるアッセイ系を構築し、和合受粉時には乳頭細胞から花粉へのイオンの供給がおこることを示してきた。本年度、EDXシステムを装着した走査電顕を用い、さらに受粉過程の観察・元素分析を凍結条件下で行なうことにより、乳頭細胞から花粉への詳細なイオンの供給が明らかになった。従って、和合シグナルを受容した乳頭細胞では、これらのイオン輸送体が機能することが示された。 2)和合シグナルにより誘起される遺伝子は、乳頭細胞で特異的に発現している可能性が高い。そこで、シロイヌナズナのレーザーマイクロダイセクション・マイクロアレイにより乳頭細胞特異的に発現する遺伝子を探索した。その中には乳頭細胞特異的に発現し、しかも発現量が非常に高い、チャネル様分子が含まれていた。この遺伝子の単独の遺伝子破壊株では顕著な表現型は見られなかったが、2重3重変異体では種子数が減少し、吸水発芽遅延が見られた。しかも、上記のEDXシステムで変異体の元素分析を行なったところ、受粉後の花粉で特定の元素の減少がみられた。従って、シロイヌナズナの受粉過程で機能する輸送体遺伝子であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は、「和合シグナル」が細胞外へのイオン輸送を誘導するという性質を利用して、以下の生化学的、分子生物学的、遺伝学的解析を行ない、「和合シグナル」の探索と下流の情報伝達系の解明を行なうことを考えた。 1.昨年度までの蛍光色素によるアッセイ系により輸送体の性状解析とマイクロダイセクション・次世代シーケンサーによる解析から、「和合シグナル」がタンパク質である可能性が示唆された。そこで、発現タンパク質を用いた受粉アッセイにより「和合シグナル」活性の有無を調べて候補分子を絞り込む。 2.「和合シグナル」下流情報伝達系の分子生物学的解析を進めるために、本年度候補遺伝子として得られた遺伝子の機能解析を進める。具体的には、表現型が見られた2重、3重変異体について相補試験を行い表現型が回復するかどうかを調べる。また、候補遺伝子にGFPタグを付けたコンストラクトを作製してシロイヌナズナに導入し、GFPの局在解析を行なう。この遺伝子に加えて、他のイオン輸送体が関与している可能性も考えられることから、乳頭細胞特異的発現遺伝子群からイオン輸送に関わる分子をさらに探索し、機能解析を進める。 3.和合受粉時には、花粉管の発芽伸長に伴って乳頭細胞の形態的変化が進む。そこで「和合シグナル」下流情報伝達系の生理学的形態学的解析を進める。そのために、和合受粉過程初期の乳頭細胞におけるオルガネラのライブセルイメージングを行なう。すでに乳頭細胞の液胞、ER、ゴルジ体、トランスゴルジ体、核、アクチンを可視化できる植物体を完備しているので、これらを利用する。さらに本学に設置されている電子顕微鏡を用いて、乳頭細胞超微形態の3次元的解析を進める。具体的には、急速凍結・凍結置換サンプルを用いて2~3ミクロンの切片を作製し、STEMトモグラフィー解析により細胞膜、液胞、ゴルジ体などの膜構造の関連について調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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