研究課題
植物ホルモンオーキシン(IAA)は、植物の発生、分化、成長、さらには環境応答に至る全生活環を通し重要な役割を果たすホルモンである。近年の研究により、IAAは作用するにあたりまず植物内を輸送され、厳密にその分布を制御することが示されており、その輸送に関わる多くのキャリアータンパクが同定されている。しかし、それらタンパクの重複性や相補性の問題などから、それぞれのキャリアータンパクがどのような植物の生理反応に貢献しているか示されていない。そこで、数あるキャリアータンパクの役割を個別に解析可能なツールとして、それぞれのタンパクに特異的な阻害剤を開発することを目的とし、阻害剤を用いた研究を発展させIAA 輸送キャリアーの生理的役割、さらには新奇輸送タンパクの発見とIAA 輸送分子メカニズムの解明を目指す。 23年度は、数年前より継続してきたトウモロコシ幼葉鞘の重力屈曲と内生IAA量の測定により、市販のケミカルライブラリー(Maybridge HitFinder 10000)からのスクリーニングを進め、8つの新規なIAA輸送阻害剤候補を選抜した。これらはNPA様(A)とBFA様(B)のグループに分別されたが、特にBグループの4化合物についてはPINの細胞内分布にBFAとは異なった効果を示すことから、細胞内小胞輸送に対して何らかの影響を与えることを通して、IAAの輸送を阻害することが推察された。この結果は、論文としてまとめ投稿中である。 これらの阻害剤はIAA排出運搬体に対する阻害作用であるが、さらに2種のIAA流入運搬体に作用すると考えられる化合物を選抜した。現在、その作用についてより詳細な検討を加えている。
1: 当初の計画以上に進展している
平成23年度の計画として以下の項目をあげた。(1)IAA輸送阻害剤候補の阻害活性の検討、(2)得られた阻害剤候補がオーキシン活性またはアンチオーキシン活性を有する可能性、(3)得られた阻害剤候補がIAAの取り込みに作用するか排出に作用するか決定する、(4)阻害剤候補がIAA 輸送タンパクの細胞内局在の制御に関わる可能性の検討。 (1)~(4)まで、NPA様のIAA排出運搬体を標的とする新規の阻害剤に関しては、ほぼ予定通りに進行し成果を論文にまとめることができた。(Identification of Indole-3-Acetic Acid Transport Inhibitors Including Compounds Affecting Cellular PIN Trafficking by Two Chemical Screening Approaches using Maize Coleoptile Systems. 投稿中(accept after minor revision)) 一方、IAAはAUX1などの流入運搬体を介して植物内に取り込まれることが知られているが、この流入運搬体を標的とする化合物も2種選抜されてきた。これまで1-NOAがその阻害剤として知られているが、シロイヌナズナを用いた研究では、今回見つけた化合物は、作用する部位や時期で作用が異なることが明らかになりつつあり、大変興味深い結果を得ている。24年度の継続の中心課題として考えている。全体として、計画以上の成果が得られ高く評価できる。
1.23年度に絞り込まれた新規排出運搬体のうち、特に細胞内小胞輸送に対してNPAと異なる作用をすると考えられる4種の阻害剤について、その作用点についてより詳細な検討を加える。その際、シロイヌナズナのオーソログの存在の確認も進め遺伝学的な研究も進める。また、ターゲットタンパクを特定するため、酵母のタンパク発現系を用いた輸送阻害剤の選択性の検討、プルダウンアッセイによるターゲットタンパクの特定、 タンパクの断片過剰発現体を用いた耐性実験などを進める。 酵母にPIN1などのタンパクを発現させ、IAAの輸送活性を評価する系が確立できれば、複数の阻害剤を同時に処理することにより阻害剤の選択性を検討することができる。これは現在阻害剤の選択性を評価する上で最も有用な手法であると考えられる。これによりターゲットタンパク(ファミリー)が推定できると考えている。また、PINなど関連するタンパク質の抗体を用いることで阻害剤のタンパク質との直接の相互作用などの検討も可能である。さらに、タンパクの断片(機能を持たない)の過剰発現体を作成して阻害剤に対する耐性実験を行うことでタンパクのどのアミノ酸領域と相互作用しているか調べることを予定している。2.搬入運搬体の阻害剤候補については、作用の詳細に関してシロイヌナズナを用いて検討を加えた上で成果を論文としてまとめる。さらに、これらに関しても1.と同様の検討を進めることで、IAA輸送の分子・細胞レベルでの機構を明らかにしていく。
計画に従って、順調に進展しており、研究費はトウモロコシ、シロイヌナズナの生育とPIN、膜系の可視化など、ほぼ23年度と同様の研究費の執行を予定している。新規の計画として酵母等での発現とIAA運搬活性の調査、PINやPGPなどの抗体を用いたプルダウン実験が加わることから、抗体関係の支出が多くなる。
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