研究課題
植物ホルモンオーキシン(IAA)は、植物の発生、分化、成長、さらには環境応答に至る全生活環を通し重要な役割を果たすホルモンである。近年の研究により、IAAは作用するにあたりまず植物内を輸送され、厳密にその分布を制御することが示されており、その輸送に関わる多くのキャリアータンパクが同定されている。しかし、それらタンパクの重複性や相補性の問題などから、それぞれのキャリアータンパクがどのような植物の生理反応に貢献しているか示されていない。そこで、数あるキャリアータンパクの役割を個別に解析可能なツールとして、それぞれのタンパクに特異的な阻害剤を開発することを目的とし、阻害剤を用いた研究を発展させIAA 輸送キャリアーの生理的役割、さらには新奇輸送タンパクの発見とIAA 輸送分子メカニズムの解明を目指す。24年度は、前年度トウモロコシ幼葉鞘の重力屈曲と内生IAA量の測定により、市販のケミカルライブラリー(Maybridge社)からのスクリーニングで得られた、8つの新規なIAA輸送阻害剤候補についてより詳細な検討を行った。その結果、これらはNPA様とBFA様のグループに分別され、特に後者の4化合物についてはPINの細胞内分布にBFAとは異なった効果を示し、細胞内小胞輸送に対して何らかの影響を与えることを通してIAAの輸送を阻害することが推察された。この結果は論文として発表した(Nishimura et al., PCP, 2012)。さらに、上記8種の阻害剤候補とは別に2種のIAA流入運搬体に作用すると考えられる化合物を選抜した。既知のIAA流入輸送体の阻害剤として1-naphthoxyasetic acid (1-NOA)の作用と比較したところ、特に一種は植物体内で実際にIAAの細胞内への取り込みを1-NOAとは異なる作用点で抑制する新規の搬入輸送阻害剤であることが強く示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
平成24年度の推進方策として、(1)4種の新規IAA輸送阻害剤候補の作用点(IAA受容体、細胞内輸送系タンパク因子など)に関する遺伝学的、生化学的研究、(2)新規の流入運搬体を標的とする化合物の2種についての作用の詳細と標的の探索、を計画した。(1)に関しては国内外の研究グループからこの新規化合物に対して共同研究を含む提案を受けたこともあり、複数の方向からの研究がすすめられたが、作用点の絞り込みにはまだ至っていない。一方、(2)の搬入運搬体阻害剤候補に関しては、1-NOAとの詳細な比較を進め、根におけるオーキシン取り込みの領域の違いや根の重力応答、アピカルフック形成への影響など、大きな違いのあることが分かってきたころから、本年度は、特に(2)に関する研究に重点を置いて進めた。さらに、輸送阻害剤の研究が大きく進展したため、同様にケミカルスクリーニングによって特定されてきた新規IAA合成阻害剤に関する研究を追加・推進した。特に大腸菌で阻害剤の標的候補であるYUCタンパク質を過剰発現させ、酵素活性への阻害効果を確認するテーマに取り組んだ。これらの結果に関して、投稿論文の準備できる段階まで到達し、現在後者の合成阻害剤に関する論文は投稿中である。後者の搬入運搬体の阻害剤に関する研究に関する研究も世界的に少なく、極めて興味深い新しい知見を得ており、全体的に見て計画以上の成果が得られていると評価する。
本申請は、申請時23-25年度の3年間の計画であり、基本的に新規流入運搬阻害剤に関する研究を中心テーマとしたが、研究の進展が順調なため、24年度は同じスクリーニングから得られてきたIAA合成阻害剤候補に関する研究の一部についても精力的に進めた。このため、25年度の最終年度は、上述したように搬入運搬体の阻害剤候補に関する実験を進め論文にすること、および、合成阻害剤ついても論文としてまとめることを中心的な計画として進める。
効率的な予算執行で順調に研究を進められたため、今年度残額が335,934円となった。この残額を含む次年度の使用計画は以下である。<新規IAA流入運搬体に関して>1.根のオーキシン取り込み活性と領域の観察。2.根の重力応答に対する影響。3.アピカルフック形成に対する影響。の、3点を中心にデータを固めるとともに、論文としての発表を予定する。<新規IAA合成阻害剤候補に関して>1.大腸菌でのAtYUC1の発現と酵素活性の測定、および、阻害剤の効果について、すでに論文投稿中である。2.シロイヌナズナAtYUC2、および、トウモロコシSPI1, ZmYUC-like1, 2 につていも大腸菌での発現系を確立する。3.すでにAtYUC1に対する特異抗体の作成には成功しているため、シロイヌナズナでのAtYUC1の組織分布や細胞内での存在状態に関する知見をプルダウン法などを用いて明らかにする。
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