本研究課題は、シダ光受容体PHY3のフィトクロム光センシング部位 Photosensory Core Module (PCM) の青色光受容機構に着目し、PHY3の青色光シグナル受容メカニズムの解明に向けて新たな知見を得ることを目的とした。PCMを構成する3つのサブドメイン(PAS/GAF/PHY)を、青色光反応を誘導しないシロイヌナズナPHYBのものと置換した改変PHY3を用いて、PHY3の青色光受容機構を解明する。これらの研究によりシダ植物の弱光環境適応機構や植物進化の分野に新たな知見を与えることが期待さるとともに、フィトクロム分子の光応答波長決定のメカニズムの解明にも新たな情報をもたらすことが期待された。 実施期間を通し、研究実施計画に従って改変PHY3遺伝子の構築と形質転換植物体作成、さらに遺伝子導入植物体の表現型の解析を進めた。まず、PHY3のPCMに依存した青色光受容と、それに応答した生理反応誘導に関して詳細な解析を行った。その結果、PHY3のPCMが制御する青色光反応は、遠赤色光の照射によって打ち消される反応であることを明らかにした。さらに、遠赤色光による打ち消し効果はPHY3分子のC末端側に位置するフォトトロピン部分による青色光反応にもおよぶことが明らかになった。このことからPHY3光受容体は、フィトクロムとフォトトロピンの構造を併せ持ちながらも、主としてフィトクロムとして機能している分子であることが示された。一方、PCMサブドメインを置換したPHY3では、現在までに解析したすべての改変PHY3において光応答性が見られていない。この原因として、PHY3とPHYB間のPCM各サブドメインにおける一次構造の微細な差異による可能性が考えられ、その部分にPHY3のPCMによる青色光受容機構を解明する鍵が存在する可能性が示唆された。
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