研究課題/領域番号 |
23570063
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
菓子野 康浩 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 准教授 (20221872)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 光化学系II複合体 / クロロフィル合成 / 膜タンパク質複合体 / シアノバクテリア |
研究概要 |
光合成光化学系II複合体は、20種類ものタンパク質から構成される膜タンパク質複合体であり、しかも、常に修復あるいは新規構築されている。葉緑体チラコイド膜上には異なる膜タンパク質複合体も含まれているにもかかわらず、新規合成された各サブユニットタンパク質が紛うことなく集合し、複雑な複合体を構築する。その構築過程の全容解明を目指し、本研究では構築の第一ステップつまり複合体の誕生に関わるタンパク質・因子を発見・特定し、その機能の解析を行う。当該タンパク質を特定して機能を解明することは、環境ストレスにより光化学系IIが減少しやすい作物の分子育種の基礎ともなり、作物の生産性向上や大気中二酸化炭素の低減に繋がることが期待される。このような目的のために、シアノバクテリアSynechocystis 6803のクロロフィル合成経路の「光依存的な酵素」と「光『非』依存的な酵素複合体」のうち、光に非依存的な酵素群を遺伝子工学的に破壊した変異体を作製した。この株は暗中・グルコース存在下で増殖したが、クロロフィルの新規合成はほとんど無かった。また、そのような細胞には光化学系II複合体のサブユニットもごくわずか含まれるだけであった。光を照射すると、急速にクロロフィルが合成され始め、光化学系II複合体の量も増加した。モヤシに光を当てたときの状態である。また、この変異株を親株とし、光化学系IIと光化学系Iの特定のサブユニットのN-末端に遺伝子工学的にHistidine-tagの導入を行った。Hisitidine-tagの導入が確認されたので、光を照射し始めたときに形成され始める未熟な光化学系複合体の精製が可能となった。また、構築・修復過程にある未熟複合体の詳細なタンパク質解析のために、膜タンパク質を分離することが可能な等電点二次元電気泳動法の実用化に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、シアノバクテリアSynechocystis 6803のクロロフィル合成に関わる光に非存的な酵素群を遺伝子工学的に破壊することにより、光によって初めてクロロフィルが合成される変異体を作出し、クロロフィル合成が光で誘導される系を構築し、さらに光化学系II複合体の構築を光で誘導する条件を決定することを目指した。そして、このような変異体の作出ができれば、それを親株とし、他の変異の導入のための遺伝子改変(光化学系IIサブユニットタンパク質や関連のタンパク質の欠失、またはそれらへのHistidine-tagの導入等)を行う計画であった。クロロフィル合成系酵素の欠損株作出が終了し、クロロフィル合成および光化学系II複合体の構築誘導も確認することができた。さらに、この欠損株を親株として他のサブユニットの欠損や、特定サブユニットへのHistidine-tag導入も行うことができた。マイルストーンとなる構築・修復過程に関わる因子の特定には至っていないが、この特定は平成23年度に得られた各種の変異株を利用して24年度までかかるとの計画であった。このような理由で、「おおむね順調」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた変異株を用い、光により光化学系IIの構築を人為的に誘導し、光化学系IIの構築初期の部分的集合体を同調的に生産させるする条件を詳細に検討する。そして、そのような部分集合構築体を精製し、含まれるタンパク質やコファクターを同定する。また、Mnの定量を行うことにより(原子吸光法)、Mnクラスターがいつ、どのようにして形成されるかを解析する。 また、サブユニットタンパク質にHistidine-tagを導入した各種の株から、Histidine-tagタンパク質を結合した複合体をアフィニティクロマトグラム等により精製する。それらの中に少量含まれると考えられる未熟な複合体を見出し、その構成成分を網羅的に解析を行い、サブユニットタンパク質の組み込み順序を明らかにするとともに、組み込みに関わる未知のタンパク質を探索する。組み込みに関わる未知のタンパク質が見出された場合、その欠失変異体を作出し、機能解析を行う。また、系II複合体の特定の構成サブユニットの遺伝子を、異なる種の相同サブユニットの遺伝子と入れ替えて発現させるため、Synechocystis 6803に別の種の相同遺伝子を導入した株を作成する。また状況により、特定のサブユニットを欠失させ、これらの変異が系IIの構築にどのように影響を与えるかを解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定の節割りで行う予定である。
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