研究課題/領域番号 |
23570063
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
菓子野 康浩 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 准教授 (20221872)
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キーワード | 光化学系II複合体 / クロロフィル合成 / 膜タンパク質複合体 / シアノバクテリア |
研究概要 |
光合成光化学系II複合体は、20種類ものタンパク質から構成される膜タンパク質複合体であり、しかも、常に修復あるいは新規構築されている。その構築過程の全容解明を目指し、本研究では構築の第一ステップつまり複合体の誕生に関わるタンパク質・因子を発見・特定し、その機能の解析を行う。当該タンパク質を特定して機能を解明することは、環境ストレスにより光化学系IIが減少しやすい作物の分子育種の基礎ともなり、作物の生産性向上や大気中二酸化炭素の低減に繋がることが期待される。 前年度までに、シアノバクテリアSynechocystis 6803のクロロフィル合成経路の光非依存的な酵素群を遺伝子工学的に破壊した変異体を作製し、この株を暗中で培養すると光化学系IIの蓄積が非常に少ないことを確認した。また、この変異株を親株とし、光化学系IIと光化学系Iの特定のサブユニットのN-末端に遺伝子工学的にHistidine-tagの導入を行った。 24年度は、この二重変異株を主要な株として用いた。暗中・グルコース存在下で培養することによって光化学系複合体をほとんど含まない状態の細胞とし、光照射によりクロロフィルの合成、光化学系複合体の新規構築過程を誘導した。光照射開始後24時間の間の光化学系複合体の蓄積状況を解析すると、光化学系II複合体の蓄積が系I複合体よりも遅かった。また、系II複合体のサブユニット間の相異を比較すると、反応中心タンパク質D1が内在性アンテナタンパク質よりも速く蓄積されていた。さらに興味深いことに、D1タンパク質の含量は光照射前には少なかったにもかかわらず、反応中心複合体のある小サブユニットが暗中で多量に蓄積されていた。この小サブユニットが系II複合体の構築初期に重要な働きをしている可能性が高いことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作出した二重変異株を用いて、暗中・グルコース存在下で培養することにより、光化学系II複合体および各種の系IIサブユニットはほとんど蓄積されていない状況で、反応中心複合体のある特定の小サブユニットが多量に蓄積されていることが判明した。この小サブユニットが系II構築の初期過程で重要な働きをしている可能性が高い。すでにこの小サブユニットにはHistidine-tagを遺伝子工学的に導入してあることから、光照射前の細胞を大量に集め、可溶化後にアフィニティクロマトグラフィによる精製を行うことが容易である。これにより、系II構築の最初期に関わっているタンパク質群を網羅的に把握する目処がたった。このような理由で、「おおむね順調」とした。
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今後の研究の推進方策 |
作出した二重変異株を暗中・グルコース存在下で培養して、光照射前の細胞を大量に集める。そして、チラコイド膜の可溶化後にアフィニティクロマトグラフィにより、Histidine-tagを有するタンパク質の精製を行う。このHistidine-tag融合タンパク質と一緒に精製されてくるタンパク質群を網羅的に解析し、系II構築の最初期に関わるタンパク質を同定し、組み込みに関わる未知のタンパク質を探索する。組み込みに関わる未知のタンパク質が見出された場合、その欠失変異体を作出し、機能解析を行う。状況により、系IIの特定のサブユニットを欠失させ、その欠失が系IIの構築にどのように影響を与えるかを解析する。 また、光により光化学系IIの構築を人為的に誘導し、光化学系IIの構築初期の部分的集合体を同調的に生産させる条件を詳細に検討する。そして、そのような部分集合構築体を精製し、含まれるタンパク質やコファクターを同定することにより、成熟型への構築過程で組み込まれるサブユニットの順序を解析する。この成熟の過程、あるいは構築の誘導におけるタンパク質のリン酸化の関与を検証する。また、水分解反応の中心となるMnクラスターがいつ、どのようにして形成されるかを解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
光化学系IIの構築初期あるいは誘導におけるタンパク質のリン酸化の関与を検証するために、抗リン酸化抗体の実験・購入計画を立て、予算(12万円程度)を確保した。しかし、各種製造メーカーに問い合わせたものの、カタログ上は記載があったにもかかわらず欠品となっており、また製造見込みも立たない、とのことであった。この調査に時間を要した。他用途に予算を使用するのではなく、25年度に改めて別の型の抗リン酸化抗体を検討すべきと判断した。 タンパク質のリン酸化の検証を進めるために、改めて抗リン酸化抗体の選定・購入を行い、所期の目的を達するために、細胞の培養、タンパク質精製、タンパク質の同定、タンパク質の機能解析等のための物品の購入に充てる。また、研究成果発表(論文投稿、学会発表)のためにも使用する。
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