光合成光化学系II(系II)複合体は、20種類ものタンパク質から構成される膜タンパク質複合体であり、しかも、常に修復あるいは新規構築されている。その構築過程の全容解明を目指し、本研究では構築の第一ステップつまり複合体の誕生に関わるタンパク質・因子の発見・解析を行った。当該タンパク質の特定・機能解明は、環境ストレスにより系IIが減少しやすい作物を改良するための基礎ともなり、作物の生産性向上や大気中二酸化炭素の低減に繋がることが期待される。前年度までに、クロロフィル合成経路の光非依存的な酵素群を遺伝子工学的に破壊し、反応中心複合体の一つの小サブユニットタンパク質にHis-tagを導入したシアノバクテリアSynechocystis 6803の変異体を作出し、暗中・グルコース存在下で長期間培養することによってクロロフィル及び系I・系II複合体をほとんど含まない状態の細胞を得ることに成功した。そして、光照射開始とともに、系II及び系I複合体の構築を誘導することにも成功した。また、暗中培養の細胞の解析により、成熟型複合体とは異なり、反応中心複合体の特定の小サブユニットが暗中で多量に蓄積されていることが明らかとなった。最終年度は、そのような細胞から膜画分を調製し、界面活性剤で可溶化して、Ni-NTAカラムによるアフィニティ精製を行った。その結果、系IIの構築初期の未成熟複合体を精製することができた。その複合体のプロテオミクス解析を行うことにより、反応中心複合体のサブユニットであるシトクロムよりも先にその複合体に結合するコアサブユニットが特定され、系II構成サブユニットタンパク質の結合していく初期の順序が判明した。さらに、反応中心複合体の構築初期にだけ複合体に結合する10種類の機能未知タンパク質も見出され、系II構築の初期過程が明らかとなった。
|