研究課題/領域番号 |
23570064
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
井上 和仁 神奈川大学, 理学部, 教授 (20221088)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 硫黄酸化 / 緑色硫黄細菌 / 光合成電子供与系 / チオ硫酸 / 硫化水素 |
研究概要 |
チオ硫酸は水圏環境において最も豊富に存在する硫黄化合物であり、これを利用する硫黄酸化細菌はチオ硫酸酸化マルチ酵素系(TOMES)を持つ。緑色硫黄細菌Chlorobaculum tepidumはTOMESによってチオ硫酸を酸化して光合成の電子供給体に用いることができる。C. tepidumのTOMESは他の硫黄酸化細菌のTOMESに比べると非常にユニークな特徴を持つ。最も興味深い知見はフラビン蛋白質SoxFの新奇な機能である。SoxFは単独では硫化水素の酸化能を示すが、チオ硫酸を酸化することはできない。しかし、TOMESと共存するとTOMESのチオ硫酸酸化活性を大きく促進する。本研究はC. tepidumのTOMESとSoxFの機能解析を行い、C. tepidumの光合成電子供与系を解明することを目的とする。 今年度は、次のような研究を行った。(1) C. tepidum細胞からのTOMES成分SoxAXKの精製条件を再検討し、イオン交換カラムの選択を変えることにより精製(2) SoxAXKの各サブユニットの組換え蛋白質(rSoxA, rSoxX, rSoxK)の大腸菌内で発現条件の検討、(3) SoxFをリガンドとしたアフィ二ティークロマトの作製、(4) 光化学系への直接的な電子供与体であるCyt c554をリガンドとしたアフィ二ティークロマトの作製、(5) SoxYZに保存されているシステイン残基に結合している物質のMALDI-massによる解析。SoxC. tepidumSoxFとCyt c554のアフィニティクロマトを作製しSoxFとシトクロムc554が弱い相互作用を持つことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
C. tepidumのSoxAXKは他の硫黄酸化細菌が有しない新奇のサブユニットSoxKを持つ。このSoxKは緑色硫黄細菌のペリプラズム内でSoxAKX複合体がアッセンブリーされる際に足場となる結合蛋白質としての機能を持つらしいことを見いだしている。その機能を明らかにするために、ネーティブのSoxAXKの結晶化、組換え蛋白質rSoxA, rSoxX, rSoxKの結晶化のための準備としてC. tepidum 細胞からのSoxAXKの精製収率の改善、組換え蛋白質の発現系の構築等を初年度行った。また、TOMESの活性を最大速度として二倍に増幅する新奇成分SoxFの機能を解明するために、SoxFとCyt cをリガンドとする二種類のアフィ二ティークロマトを作製し、C. tepidumの細胞抽出物をかけて、アフィ二ティークロマトに補足される成分を高濃度の塩を含む溶液で解離し、SDSゲル電気泳動で解析した。その結果、SoxFのアフィニティクロマトにはCyt cが、Cyt cにはSoxFが補足された成分として検出され、これらが弱い相互作用を持つという新知見を得た。以上のように、初年度の成果としては申請書に記載した初年度の研究計画に、ほぼ、沿った成果が挙げられたと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
ネーティブのSoxAXK、組換え蛋白質rSoxA, rSoX, rSoxKの結晶化を目指す。SoxFとCyt cがどの程度の強さの相互作用を持つのか分子間相互作用をアフィ二ティークロマトの溶出時の塩濃度を変えて精密に測定し、ビアコアにより分子間の相互作用を測定する。次にTOMES各成分とSoxFが相互作用を持つか、どのような機構でSoxFはTOMESの活性を高めるのかを多角的に調べる。現在、我々は (1) SoxFはSoxYZから電子を1個受容できる可能性、(2) SoxFはチオ硫酸を結合すつSoxYZの活性部位であるシステイン残基に何らかの影響を与えている可能性、を考えている。(2)の可能性を検討するためにSoxYZ に様々なシステイン修飾剤を作用させTOMES活性、SoxFの促進効果などを測定すると同時に、MALDI-massによってSoxYXのシステインに結合する原子団を反応段階に応じて検出できるか検討する。 他の硫黄酸化細菌を使ったこれまでTOMESの反応モデルではSoxBが無くてもSoxYZに結合したチオ硫酸がSoxAXの作用によって酸化されて、テトラチオネートとなるとされている。C. tepidumではSoxBが無ければチオ硫酸の酸化が起こらないという予備的なデータを得ているので、その検証を行う。 TOMESの各成分の遺伝子がコードされているsox遺伝子クラスター上に保存されている他の遺伝子soxF1, soxF3, soxWなどの役割を調べ、これらの成分がTOMESの機能に関与している明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度では予定していた学会出張を行わず(校費にて出張)、2年度に基金化して次年度に持ち越した。次年度ではSox蛋白質の結晶化のための試薬類、SoxFの機能解析に必要な試薬類、また、TOMES成分やsox遺伝子クラスター上に保存されている遺伝子の機能解析に必要な分子生物学実験のための酵素類、オリゴDNA、プラスチック器具、カラム等の消耗品類やベクターDNAを購入する。また、これらの研究を補助するために神奈川大学理学研究科の大学院生をアルバイトとして雇用する。業務は緑色硫黄細菌や大腸菌の培養、蛋白質の精製などである。また、結晶化についての技術供与を得るために金沢大学の瀬尾博士に協力を得るための国内旅費を計上する。
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