研究課題
女性ホルモンであるエストロゲンは、脊椎動物の生殖活動の基盤となるステロイドホルモンである。本研究課題は、このエストロゲンの受容体である「エストロゲン受容体」が生物進化のどの段階から出現したのか、リガンド依存的な転写制御因子としての機能はどのように獲得されたのか、というエストロゲン受容体の成立に関わる根本問題を解決する為に行われている。平成23年度に生物進化の分岐点に位置する無顎類であるヤツメウナギと軟骨魚類であるゾウギンザメからのエストロゲン受容遺伝子の単離に成功している。平成24年度はこれら単離された遺伝子を使って、ホルモンに依存した転写活性を持つか調べた。その結果、ヤツメウナギの受容体に関して1つはホルモンに応答する受容体遺伝子でありもう1つは応答しない(ホルモンと結合しない)受容体遺伝子であることが判明した。さらに興味深い事に、ホルモンに応答する受容体はホルモンが無い状態でも転写活性を持つ事が分かった。また、ゾウギンザメの2種類の受容体遺伝子は両者共にホルモンに応答する受容体であることが分かった。さらに、片方はヤツメウナギのエストロゲン受容体と同様にホルモンが無い状態でも転写活性化能力を有する事が分かった。これらの結果は、生物が脊椎動物へと進化した際に遺伝子重複によって2種類のエストロゲン受容体が出現したが、その受容体としての機能は生物進化の段階を経る事により進化(機能進化)したことが示唆される。これまでエストロゲン受容体が生物進化の過程でどのようにその機能を獲得したのかは不明であったが、今回の結果は遺伝子の獲得は脊椎動物への進化と同時に起こり、機能の獲得はその後の生物進化に伴って徐々に獲得されていったことを物語っており、エストロゲン受容体の分子進化―機能進化の謎の一端が解明されたと考えている。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は本研究課題の2年目であり、計画していた初年度に単離した遺伝子の機能解析を行い、ホルモン非依存的な活性をもつ受容体遺伝子の発見等非常に特徴のある機能を見出した。さらに、次年度に予定している遺伝子の機能解析の準備を着実に行っており、平成25年度の研究計画を遂行するための足場を固めている段階である。これらのことから「おおむね順調に進展している」と評価している。
本研究の今後の推進方針であるが、これまで予定した計画以上に進展していると思われるので、当初の計画通りに進めて行く予定である。具体的には、単離した遺伝子の機能解析である。平成24年度にホルモン依存的な転写活性について調べてきた。そこで、下等な動物から単離されたエストロゲン受容体は①DNAと結合するか、②二量体を形成するか、③細胞内局在はどうなっているのか、という3点の特徴について調べる。得られたエストロゲン受容体を昆虫細胞で発現させる。蛍光ラベルしたエストロゲン受容体認識配列をもつDNA断片を昆虫細胞で発現させたエストロゲン受容体と混ぜた後、電気泳動をしてラベルしたDNA断片の移動度を調べることにより、タンパク質とDNAとの相互作用を調べる。さらに、培養細胞で作製した受容体タンパク質とDNAとの結合活性法(Katsu et al. Endocrinology, 2010; Mol Cell Endocrinol, 2006)を利用してエストロゲン受容体認識配列との結合能を明らかにする。また、同じく昆虫細胞で発現させた受容体タンパク質を抗体を用いて免疫沈降させる事により二量体を形成するかを調べる。さらに、哺乳類培養細胞内で受容体タンパク質を発現させる事により、細胞の何所に局在するのかを間接蛍光抗体法を用いて解析する。
該当無し
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Aquat. Toxicol.
巻: 109 ページ: 250-258
doi: 10.1016/j.aquatox.2011.09.004.
Chemosphere
巻: 87 ページ: 668-674
doi: 10.1016/j.chemosphere.2011.12.047.
Toxicology
巻: 296 ページ: 13-19
doi: 10.1016/j.tox.2012.02.010.
In vivo
巻: 26 ページ: 899-906
J Vet Med Sci
巻: 74 ページ: 1589-1595
http://www.repdev-katsu.jp/index.html