研究課題
鳥類と哺乳類は外温性である原始爬虫類の中からそれぞれが独立して内温性を獲得した動物群である。このような進化的な背景を重視し、「生殖と代謝に対する環境因子(光と温度)の影響を生殖腺と膵臓を中心としてその生理機能の変化を分子生物学的に解明する」ことを主目的として本研究を計画した。生殖腺における影響については日本ウズラを用いて展開し、昨年度の研究で明らかとなった短日処理の精巣でのAMHの著しい発現上昇がもつ生理学的意義を明らかにするため、AMH転写に関わる因子の発現を調べた。その結果、SF1、Sox9、WT1、GATA4などの発現量も一緒に上昇しており、性分化期と類似した発現機構でAMHの発現が制御されていることが強く示唆された。現在AMH受容体の同定も進め、部分配列の同定に成功しており、今後そAMH標的遺伝子と共にその発現を調べAMHの生理機能を解明していく予定である。外温性動物での代謝機能への環境因子の影響の解析はニホンヤモリを用いて膵臓ホルモンであるインスリンとグルカゴン関連因子の機能解析を中心行っている。そして昨年発見したニホンヤモリのインスリンのアミノ酸配列の塩基置換の蓄積がヤモリ属を中心とした近隣種に集中されていることが分かった。現在更に動物種を増やして詳細に調べている。一方、プログルカゴンペプチド由来ホルモン遺伝子からGLP-1とGLP-2のみをコードしているmRNAが優先的に発現していることを発見した。これらのmRNAは他の脊椎動物では発現されていない新規のものであった。このことから、爬虫類の中での分布を詳しく調べている。以上のようにヤモリ下目のトカゲのインスリンとグルカゴン関連ホルモンの分子構造には大きい特徴があることを明らかにできたので、今後これらの分子特性がもつ生理学的意義を詳しく探求していく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
生殖腺での研究ではホルモンであるAMHが短日環境下での精巣で重要な役割を果たしている可能性が示唆された。またAMHの発現に重要な転写因子の発現も伴うことを確認することができた。しかし、全ゲノム解析が終わっていると思われているニワトリのデーターベースではAMH受容体が含まれておらず、未だに鳥類でのAMH受容体の実態はとられていない。現在AMH受容体の部分配列の同定には成功し、鳥類でも受容体存在の可能性を確認することができた。今後更に全長の同定を行う予定である。外温性動物での代謝機能への環境因子の影響の解析では、二つの重要な膵臓ホルモンであるインスリンとグルカゴンのmRNAについて行っているが、予想もできなかった大きい発見があった。その一つはヤモリ属トカゲのインスリンに多くのアミノ酸変異が蓄積していること、そしてグルカゴン遺伝子からは、GLP-1とGLP-2のみをもつmRNAが存在し、最も多く発現されるmRNAであることを確認できた。今後これら膵臓ホルモンの分子特性が有鱗目にどのように分布しているのか、そして、その生理学的意義を外温性動物でありながら多様な種分化に成功しているヤモリ類動物の生理現象に結び付けて研究を深めていく予定である。以上のように本来研究計画通り進んでいるが、予想外の結果も多く発見できた。今後羊膜類の中でも爬虫類と鳥類の進化をも視野に入れて研究を拡大させながら進めていくことになる。
生殖腺での研究ではホルモンであるAMHが短日環境下での精巣で役割を明らかにするため、鳥類ではまだその存在が確認されていないAMH受容体の全長同定を行う。現在までは5’Raceでは満足できる結果が得られなかったので、ゲノム配列からの同定も同時に進める予定である。一方AMH以外の因子の発現動態も短日と長日処理の精巣間で比較していくと共にSertoli細胞の機能に重要な遺伝子の発現も加えて解析していく。一方、膵臓ホルモンであるインスリンとグルカゴンのmRNAで見つけたヤモリ属の特徴的分子特性についての分子進化的解明を重要な研究内容として加えることにした。これらのニホンヤモリで見つけた特性がヤモリ下目の中でも主にヤモリ属を中心に集中していることから、先ずヤモリ属トカゲを中心とした動物種での解析を進め、その分子進化を明らかにさせるつもりである。そして季節的変化は発現における性差や季節による変動などを調べることでその生理学的意義を探求していく。
本年度の研究費の殆どは実験に用いられる試薬と消耗品の購入に充てられる予定である。なお、研究集会等への出席と動物採集のための旅費、そして論文作成や情報収集などに必要な経費も含まれることになる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/index.shtml