研究課題/領域番号 |
23570070
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
窪川 かおる 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任教授 (30240740)
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キーワード | ナメクジウオ / 神経内分泌 / ステロイド / 進化 / ステロイド受容体 / 神経索 / ホルモン / 脊索動物 |
研究概要 |
脊椎動物は,ホヤなどの尾索動物,ナメクジウオ類の頭索動物とともに脊索動物門を構成し,脊索を持つ共通祖先からそれぞれ進化 した.このうちホヤは遺伝子を失う方向に進化し,脊椎動物と共通する遺伝子は多く持っていない.一方,ナメクジウオは,脊索動物門でもっとも早く分岐したが,その後の進化の過程で保存された遺伝子の多くが,脊椎動物と共通する.すなわち,ナメクジウオは脊椎動物との共通祖先がもつ遺伝子を受け継いでいると考えられ,脊椎動物の研究にとって重要な位置を占める.本研究で は,ナメクジウオの新しい性ステロイドの同定,代謝経路の完成,受容体分子の局在とリガンド結合様式、成熟・性分化への性ステロ イドの機能の解明を行ない,性ステロイドを通して,脊椎動物の内分泌機構の起源を考えることを目的とする. 平成23年度に続き,平成24年度も,5α還元ステロイドに着目して実験を進めた.5α還元ステロイド代謝酵素の遺伝子発現部位を調べ,卵巣では若い卵母細胞に,精巣では精原細胞で発現していることがわかった.生殖細胞での酵素の発現は,生殖細胞自身への性ステロイド作用の可能性を示唆した.さらに神経索での局在を明らかとしニューロステロイドの生合成を明らかにした.脳室にあたる中心管腹側部のヘッセ器官周辺の小型神経細胞での発現の可能性が示唆された. 次に非繁殖期から繁殖期 までの酵素遺伝子の発現変動を調べた.平成23年度のin vivo性ステロイド作用実験の生殖腺サンプルを用い,5α還元ステロイド代謝酵素の遺伝子発現量をQ-PCRで測定した.その結果,卵巣と精巣,繁殖期と非繁殖期で違いが見られ,それぞれの遺伝子発現細胞数の変動および代謝変動との相関が示唆された.詳細な解析は来年度になる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度での方法の確立およびサンプリングを引き継ぎ,平成24年度でそれらの実験結果を出すことができた.特に,遺伝子発現が検出された神経細胞の同定,生殖細胞の同定,および遺伝子変動の定量という成果を得ることができた. これらは当初の計画に沿っており,順調に進展していると言えるが,全ての計画が最終結果まで到達したのは5α還元ステロイド代謝酵素であり,他の代謝酵素についてはいくつかの実験が途中段階であるため,おおむね順調とした.平成25年度前半には残されたすべての実験が終了する見込みである.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は最終年度であるため,5α還元ステロイド代謝酵素以外の代謝酵素について,実験を進め,ナメクジウオが持っている性ステロイド代謝酵素すべての,遺伝子・タンパク質の局在,遺伝子変動の定量を完成される.さらに,平成23年度に確立したが平成24年度は親のサンプリングが出来ずに実施できなかった受精卵獲得を試み,発生・成長段階における性ステロイドの役割を明らかにする.また,性ステロイド受容体に関しても,その局在を神経索と生殖腺で明らかにする.新たに,性ステロイド合成・分泌の制御に関わる可能性が示唆される糖タンパク質ホルモンについても,平成25年度に研究を進める. 一方,脊椎動物において,神経葉ホルモンが性ステロイド合成・分泌を制御する可能性が報告されたことから,ナメクジウオにおける神経葉ホルモンの局在と性ステロイドとの関係についても研究を実施することにする.また,性ステロイド代謝の制御に関わる可能性のもうひとつに,神経索における糖タンパク質ホルモンの存在がある.この分泌細胞と性ステロイド合成細胞との関係についても実験を進める.同時に,神経葉ホルモン,糖タンパク質ホルモン,性ステロイドのそれぞれの受容体の存在も明らかにしていく.いずれも方法は確立されている. 研究期間の終了時には,ナメクジウオにおける性ステロイドの合成・分泌細胞の存在と推定される作用を明らかとし,性ステロイドの内分泌機構の進化について考察する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は親個体の入手ができず,産卵実験を実施できなかったため,平成25年度は採集と産卵のための謝金・旅費・消耗品がさらに必要となる.実験に使用する消耗品は従来と同様であるが,最終年度のため使い切る物品のみを購入する.旅費は,2年間の研究成果の発表の機会が多くなり,終了直前に海外での学会発表も予定している.なお高額備品を購入する予定はない.
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