研究課題
科学研究費補助金の配分が2回分割となったことから、当初予定していた遺伝子の網羅的大量解析(EST)は他経費で行われた。EST用経費は物品購入費と旅費に充当された。研究は、ほぼ交付申請書に記載された内容に沿って行われた。1)ヌタウナギの性ステロイドホルモン合成酵素群について、新たに3500クローンのEST解析を行ったが、性ステロイドホルモン合成酵素に関連した新たなクローンは得られなかった。一方、生殖腺におけるコレステロール側鎖切断酵素(CYP11A)のmRNA発現量の詳細な変化が明らかとなった。すなわち、卵黄形成前の卵では非常に低く、卵黄形成と相関して上昇するが、退化卵胞では卵黄形成前と同程度に低いことから、退化卵胞でのホルモン生産量も低いことが示唆された。2)ヌタウナギにエストロジェンを投与し、1日後と2日後に調べると、GTHβ鎖mRNA発現量は1日後では対照群と差がみられないものの、2日後では有意に上昇していた。一方、GTHα鎖mRNA発現量には、1日後も2日後も変化が見られなかった。これまでの成果とあわせて、エストロジェンの下垂体に対する負のフィードバック作用はGTHの生産抑制には働いておらず、分泌抑制に働いていることが強く示唆された。3)ヌタウナギの下垂体の視床下部支配を調べる目的で、各種視床下部ペプチドを免疫組織化学、生化学的検索、MALDI-TOF-MS分析等により調べた。その結果、ヌタウナギの視床下部にPQRFaペプチドならびに新規RFaペプチドが存在していること、器官培養下の下垂体にPQRFaペプチドを投与すると、GTHβ鎖のmRNA量が用量依存的に増加すること、PQRFa含有ニューロンの神経終末が視床下部漏斗核に分布する血管に終わることなどが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
ヌタウナギの生殖内分泌系については、これまで、機能的な視床下部ー下垂体ー生殖腺軸は存在しないと考えられてきた。ヌタウナギが機能的な生殖腺刺激ホルモン(GTH)をもつことを示した私たちの最近の研究(PNAS, 2010)を端緒に、ヌタウナギの生殖内分泌系の研究が始まったところである。本研究で、エストロジェンの血中濃度ならびに性ステロイドホルモン合成酵素の発現動態が生殖腺の発達段階や下垂体GTHのmRNA発現量やタンパク量と強い相関性を持つことが明らかになり、また性ステロイドホルモンの負のフィードバック作用についても明確な知見を得た。さらに、視床下部の下垂体GTH支配についても新たな知見を集めている。以上のように、研究は着実な進展をみせている。
性ステロイドホルモン合成酵素群のEST解析は、期待した成果をあげることができなかったので、他の脊索動物の関連酵素を指標にプライマーを設計しクローニングする方法を試す。また、エストラジオール17β以外の性ステロイドホルモンについても血中ホルモン動態を調べ、生殖腺機能と関連づけて機能解析を行う。さらに、ヌタウナギ精巣培養系において組換えGTHを投与することにより、CYP11A等の酵素群の遺伝子発現量の変動を調べ、ヌタウナギGTHのステロイド産生における機能を理解する。
当初の計画通り、主要経費として物品費と旅費を予定している。物品費の内訳は動物(ヌタウナギ)購入費ならびに生化学試薬、遺伝子解析用キットである。旅費の内訳は成果発表旅費と動物購入旅費である。
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Endocrinology
巻: 153 ページ: 2362-2374
10.1210/en.2011-2046
巻: 152 ページ: 4252-4264
http://www.niigata-u.ac.jp/top/pickup/230926_1.html
http://www.sc.niigata-u.ac.jp/sc/pub/maga/No29.pdf