研究課題
新潟県沿岸の海水温の異常上昇により、年間を通じて材料のクロヌタウナギがほとんど入手できなかったため、新規の研究の多くが次年度に持ち越しとなった。主な成果として、1)クロヌタウナギの血中ステロイドホルモン動態をエストロジェンのみならず、テストステロンとプロゲステロンについても雌雄とも幼弱期から生殖腺の発達段階に応じて調べ、学術雑誌に投稿した。2)エストロジェンとテストステロンのそれそれをクロヌタウナギに投与して、下垂体の生殖腺刺激ホルモン(GTH)のα鎖とβ鎖の両方の蛋白量とmRNA量の変化を調べた。エストロジェン投与により、GTHの蛋白量はα鎖とβ鎖の両方とも顕著な増加を示したが、テストステロン投与では有意な変化が見られなかった。一方、GTHのmRNA量は、エストロジェン投与により顕著な変化がみられず、テストステロン投与により有意に減少した。これらの結果から、エストロジェン投与によるGTH蛋白量の増加は下垂体からのGTHの分泌が抑制されたためであり、テストステロン投与によるGTH mRNA量の減少は、GTHの生産と分泌の両方が抑制されたためと示唆された。これらの成果をまとめ、学術雑誌に投稿した。3)前年度の研究で、クロヌタウナギの精巣cDNAライブラリーからコレステロール側鎖切断酵素(CYP11A)の遺伝子をクローニングし、そのmRNA発現量が卵巣の発達段階と相関して増加することを明らかにした。今年度の成果として、CYP11AのmRNA発現量が精巣の発達段階とも相関して増加することを明らかにするとともに、生殖腺内でのCYP11AのmRNAの発現部位をin situ hybridizationにより調べた。その結果、CYP11A mRNAは、精巣では間細胞に強発現し、卵巣では莢膜細胞に強発現と顆粒膜細胞に弱発現していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
ヌタウナギの生殖内分泌系については、これまで情報が乏しく、機能的な視床下部ー下垂体ー生殖腺軸は存在しないと考えられてきた。ヌタウナギが機能的な生殖腺刺激ホルモン(GTH)をもつことを示した私たちの最近の研究(PNAS, 2010)を端緒に、ヌタウナギの生殖内分泌系の研究が始まったところである。本研究で、視床下部ホルモンの一つであるPQRFaペプチド投与により下垂体のGTH mRNA発現量が用量反応的に上昇したことと、PQRFaペプチドの神経終末が視床下部内の血管に終末を作ることから、ヌタウナギのGTH機能が視床下部支配を受けていること(Osugi et al., Endocrinology,2011)、エストロジェンの血中動態が生殖腺の発達段階と相関して増加すること(投稿中)、GTHの生産・分泌が視床下部を介して性ステロイドホルモンにより抑制的に調節されていること(投稿中)などが明らかとなり、ヌタウナギの視床下部ー下垂体ー生殖腺軸の全体像が理解できるまでに至ったことはきわめて大きな成果である。
性ステロイドホルモン合成酵素群のEST解析は、期待した成果をあげることができなかったが、幸いにもステロイド合成酵素群全体の律速酵素であるCYP11A遺伝子がクローニングできたので、この酵素を手がかりに、ヌタウナギの精巣培養系に組替えGTHを投与することにより、ヌタウナギGTHのステロイド産生における機能を理解する。また、ヌタウナギの副腎皮質相当組織の同定や脳でのニューロステロイドの発現動態などを明らかにする。現在、ヌタウナギの視床下部の生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)は同定されていない。エストロジェン投与により下垂体のGTH分泌が抑制されるということは、GnRHも分泌抑制されて、ニューロン内に蓄積されているものと思われる。免疫組織学的に検出できる可能性も高いので、ヌタウナギのGnRHについても調べたい。
当初の計画通り、主要経費として物品費と旅費を予定している。物品費の内訳は動物(ヌタウナギ)購入費ならびに生化学試薬と遺伝子解析キットである。旅費の内訳は、成果発表旅費と動物購入旅費である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Fish Physiol. Biochem.
巻: 39 ページ: 75-83
10.1007/s10695-012-9657-6
Endocrinology
巻: 153 ページ: 2362-2374
10.1210/en.2011-2046