研究課題
ミトコンドリアは、独自のDNAをもち、半自律的に増殖するオルガネラの一つである。ミトコンドリアの正常な機能維持にはミトコンドリアDNA(mtDNA)が維持・伝達される必要があるが、その機構はほとんどわかっていない。本研究では、生体内でmtDNAの分配ユニットとして機能しているミトコンドリア核様体に着目し、真正粘菌から同定したミトコンドリア核様体分裂の制御因子候補であるミトコンドリア局在型RCC1様タンパク質pmn67(Physarum polycephalum mitochondrial nucleoid protein 67 kDa)の機能解析ならびに相互作用因子の同定から、ミトコンドリア核様体分裂の制御機構の全体像を明らかにすることを目的としている。 これまでに、pmn67の発現抑制により、ミトコンドリア核様体が不等分裂し、小さなサイズのミトコンドリア核様体が多数生じることが分かっていたが、その際、まずミトコンドリアのクリステの発達が抑制されることが、電子顕微鏡観察により明らかとなった。また、長期にわたってpmn67を発現抑制した場合に、ミトコンドリア膜に局在するATPシンターゼの発現減少、およびミトコンドリア核様体に局在するトポイソメラーゼの発現増加がみられることが質量分析などを用いた解析により明らかになった。さらに、DNaseを用いた解析より、pmn67がDNA結合能を持つことが示唆され、pmn67がミトコンドリア膜と核様体の相互作用にかかわっていることが予想された。また、ヒトのミトコンドリア局在型RCC1様タンパク質を同定し、RNAiを用いた発現抑制解析により、ヒトにおいてもミトコンドリア核様体の分配にかかわっている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度に計画していたミトコンドリア核様体分裂過程におけるpmn67の局在解析については、作成した抗体が細胞染色に適していなかったために、現在、再度抗体作成を行っているところである。しかし、電子顕微鏡観察やDNaseを用いた解析により、当初計画していたミトコンドリア膜やDNAとの相互作用との関連については、新規知見を得ることができた。また、平成24年度以降に計画していたpmn67の普遍性に関する解析において、ヒト培養細胞を用いた解析を開始し、ミトコンドリア局在型のRCC1様タンパク質が普遍的にミトコンドリア核様体の不等分裂に関与している可能性が示唆された。
pmn67は、保存性の高いRCC1様ドメインをもつことから、低分子量GTPaseを活性型(GTP結合型)にするグアニンヌクレオチド交換因子であると考えられる。そこで、pmn67のターゲットとなる低分子GTPaseを同定するために以下の解析を行う。申請者らは、これまでに、単離ミトコンドリア核様体のプロテオミクス解析において、3種類の低分子量GTPaseを同定している。そこで、まずそれらのGTPaseを候補とし、pmn67がそれぞれのGTPase(GDP固定型変異をいれて不活性型にしたもの)に結合するかどうかを酵母Two-hybrid法を用いて調べる。もし、いずれのGTPaseにも結合しない場合は、さらに真正粘菌の単離ミトコンドリアのプロテオミクス解析を行い、新たな候補となるGTPaseを探索する。続いて、候補GTPaseに関しては、大腸菌で発現させ、精製し、GTPaseに対するグアニンヌクレオチド交換因子活性をもつかどうかをin virtoアッセイ系で確かめる。さらに、候補GTPaseに関してモルフォリノアンチセンスオリゴを用いた遺伝子抑制解析を行い、ミトコンドリア核様体分裂の制御機構に関与するGTPaseを同定する。さらに、ヒトのミトコンドリア局在型RCC1様タンパク質に関しても同様の解析を行う。
すでに研究室で保持している実験機器を用いる予定であり、本研究費では消耗品(試薬、抗体作成)の購入により研究の遂行を行う予定である。
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Mitochondrion
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