研究課題
神経堤細胞の派生物である色素細胞は、その発生過程で異なるサブタイプが分化する。メダカには黒、白、黄、虹色の4サブタイプが存在するが、ゼブラフィッシュでは白色素胞がない。我々は最近、sox5変異がメダカの白および黄色素胞に発生異常をもたらすことを見出した。本研究では、分子遺伝学的な手法を用いて、神経堤細胞から色素細胞への発生分化の過程でSox5が果たす役割を明らかにする。Sox5はSoxDファミリーに属するが、構造的な特徴から、必ずしも直接的に転写活性化を担っておらず、類似のHMGボックスを持つSoxEファミリーの活性を調節して間接的に転写に関わることが示唆される。本研究では、Sox5とSoxEの相互作用が神経堤由来幹細胞の分化制御を行う可能性に注目して実験を行っている。本年度は以下の成果を得た。1)メダカTILLING変異体の単離: sox5の標的となるsoxE遺伝子を明らかにするため、TILLINGライブラリーをスクリーニングして新たにsox10bの変異体を得た。2)ゼブラフィッシュsox5の解析: 昨年度、ゼブラフィッシュsox5のモルフォリノノックダウン個体において虹色素胞の発生異常をもたらすことを報告したが、その後Zinc Finger Nucleaseを使って作出されたゼブラフィッシュsox5変異体を入手し色素細胞の発生を観察したところ、上記の表現型は認められなかった。3)メダカTg(hsp70:sox5)の作製:熱処理によってsox5の発現を誘導できるトランスジェニックメダカを作製した。sox5の過剰発現によって、色素細胞の運命が変えられるかを調べる予定である。今後、これらの研究をさらに推進し、色素細胞におけるSox5とSoxEの相互作用および、異魚種の色素細胞発生におけるsox5の役割を追求する。
3: やや遅れている
TILLINGスクリーニングにより、sox10b変異体は機能ドメインに有効なアミノ酸置換を持つものが見つかったが、sox10aについてはほぼすべてのコード領域をスクリーニングしたにもかかわらず機能欠損変異体が単離できなかった。現在、最近開発された新しい手法(TALEN)によってメダカsox10a変異体を改めて作出しているところである。このため、予定よりもやや遅れて、メダカsox10変異体(sox10a,b二重変異体)が完成する見込みとなった。ゼブラフィッシュsox5変異体についても、TALEN法によって新たな変異体を作出し、再度色素細胞における表現型の有無を確認することとした。sox5発現細胞が黄色素胞に分化するか白色素胞に分化するかを明らかにするため、Cre-loxP系を用いてsox5発現細胞の細胞系譜を追跡する予定であった。この計画については、Tg(sox5:cre)を作製ずみであるため、loxPレポーターラインとの交配によって、平成25年度の早い時期に結論を出せる見込みである。
平成25年度に推進する研究計画は以下通りである。1)sox5変異体(ml-3)とsox10a,b変異体の遺伝的相互作用の解析:sox10a,b二重変異体を作製し、ゼブラフィッシュsox10変異体(神経堤由来色素細胞をすべて欠損する)と同様の表現型を示すか否か明らかにする。また、これをsox5変異体と交配し、三重変異体において色素細胞の表現型を調べる。ゼブラフィッシュにおいては、TALENを用いてsox5変異体およびsox5、sox10二重変異体を作出し、色素細胞における表現型をメダカと比較する。2)sox5の過剰発現による色素細胞の運命決定の変更:Tg(hsp70:sox5)を用いて、熱ショックによりsox5を人為的に過剰発現した胚を作製し、その後の色素細胞の発生を追跡する。浸漬による熱処理で胚全体でsox5を過剰発現させる実験と、赤外レーザー照射によって一細胞レベルでsox5の発現を誘導する実験を計画している。このように、sox10との遺伝的相互作用、機能欠損と機能獲得の表現型および、細胞系譜の解析から、sox5の色素細胞における機能を比較発生学的に明らかにしたい。
備品の購入は計画していない。消耗品については、これまでの2カ年と同様に購入する見込みである。また、日本動物学会および日本発生生物学会において成果発表を行うため、国内旅費の支出を見込んでいる。本年度中にこれまでの成果を論文発表するため、英文校正や出版費などを支出したい。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件)
Current Biology
巻: 22 ページ: 601-601
doi: 10.1016/j.cub.2012.01.063.