研究課題/領域番号 |
23570080
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
日高 道雄 琉球大学, 理学部, 教授 (00128498)
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キーワード | サンゴ / 群体 / 老化 / 再生 / 無性生殖 / テロメア / テロメラーゼ / 生活史 |
研究概要 |
本研究では,イシサンゴの高い再生能力や長寿命の細胞学的基盤を解明することを目的とし,(1)テロメア長に基づくサンゴの年齢査定の方法を開発し,サンゴの再生過程でテロメア長の伸長など若返り現象が見られるか,群体内のポリプの年齢は同一か,それとも遅く出芽したポリプほど若いのかを調べることを目的とした.さらに(2)サンゴで見られる骨格異常と呼ばれる腫瘍状構造のテロメラーゼ活性やテロメア長,細胞死の機構を調べ,骨格異常が「腫瘍」の性質を持つのかを明らかにすることを試みた. アザミサンゴの異なる発生段階(精子,プラヌラ幼生,成ポリプ)で単一テロメア長測定法(STELA法)を用いてテロメア長を比較したが,有意差は無かった.テロメア長測定に従来用いられてきたTRF法によっても,ポリプで若干テロメア長が減少する傾向はみられたが,有意差は得られなかった.このことから,アザミサンゴでは初期発生段階でテロメア長を維持するテロメラーゼが発現している可能性が示唆された.実際にアザミサンゴの体細胞組織はかなり高いテロメラーゼ活性をもつことを見出した. 一方,コユビミドリイシのテロメア長をTRF法で測定したところ,精子,プラヌラ幼生,成群体のポリプ間で有意な差が見られ,発生に伴ってテロメア長が短縮することを見出した(Tsuta and Hidaka 投稿中).成長速度の速いミドリイシ類では,テロメア長に基づいて群体の年齢測定が可能なことが示唆された.単体サンゴのトゲクサビライシにおいても,体細胞のテロメア長は精子のテロメア長よりも有意に短く,単体サンゴにおいてもテロメア長が年齢とともに短縮することが分かった. サンゴの成長異常部において,アポトーシスによる細胞死の頻度が低下する一方,細胞増殖が亢進し,組織恒常性の制御不能が成長異常の様々な病状を引き起こしている可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アザミサンゴではテロメア隣接領域(subtelomeric region)の塩基配列を決定し,STELA法を群体サンゴに適用することに成功した.4つの特定染色体のテロメア長を測定することに成功し,異なる発生段階でのテロメア長の比較を行い,有意差がないことを示した(Tsuta and Hidaka 2013).一方,群体サンゴであるコユビミドリイシのテロメア長が,精子,プラヌラ幼生,成群体のポリプと発生段階が進むにつれ短縮することをTRF法により示した(Tsuta and Hidaka投稿中).同様に単体サンゴのトゲクサビライシにおいても,精子のテロメア長が体細胞のテロメア長より長いことを示した(Ojimi et al. 2013).また,アザミサンゴの体細胞組織が高いテロメラーゼ活性を示すことも報告した(Nakamichi et al. 2012).さらにサンゴの成長異常部において,アポトーシスによる細胞死と細胞増殖のバランスが崩れ,組織恒常性が制御不能になっていることを報告した(Yasuda and Hidaka 2012).今年度中に論文4報を公表し,1報は投稿中であり,5件の学会発表を行った.本研究課題は,おおむね順調に進展していると考える. ゲノム情報のあるコユビミドリイシについては,OIST佐藤ユニットの協力を得て,テロメア隣接領域と思われる配列をゲノムより探索し,STELA用プライマーを設計し,STELA産物を増幅できることを確認した.コユビミドリイシのSTELAを用いた解析はさらに実験を進める必要がある.アザミサンゴとコユビミドリイシの結果の違いが,体細胞組織のテロメラーゼ活性の差に由来するのかについてもさらに検証する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
単一テロメア長測定法(STELA法)は,PCRを用いる方法であるため感度が高く微量のDNA量でも測定可能である一方,操作が複雑であり,種ごとにテロメア隣接領域の塩基配列を求める必要がある.また短いテロメアをより効率的に増幅してしまう(テロメア長を過小評価する)危険性がある.制限酵素により切断した染色体末端部をサザンハイブリダイゼーションにより検出するTRF法は,種ごとにプライマーを設計する必要がなく,様々な種に適用可能である. 今後,ハマサンゴを対象としてTRF法により群体サイズとテロメア長の関係を解析する.ハマサンゴでは,群体サイズと骨格の成長速度や成長輪から年齢を推定できるため,サンゴの年齢によるテロメア長短縮速度(telomere length rate of change, TROC)を求める.できれば,サンゴ数種でTROCの値を比較する. コユビミドリイシでは,群体中央部の(古い)ポリプのテロメア長のほうが周縁部の(新しい)ポリプのテロメア長よりも長かった.この結果は,群体サンゴのテロメア長は,ポリプ形成からの時間のみによって決まるのではなく,その部位の細胞分裂頻度によっても影響を受けることを示唆する.この点についてさらに検証したい.また,アザミサンゴとミドリイシを用いて,」出芽や再生時にテロメア長が回復するかを調べる.さらに,出芽時の幹細胞動態を調べ,「ポリプ出芽時に幹細胞から体細胞への分化が起こり,その時点がポリプの年齢の開始点となる」という仮説を検証することを試みる. アザミサンゴとミドリイシを材料として,テロメラーゼ活性を様々な発生段階で測定することにより,両種間のテロメア長の変化がテロメラーゼ活性の差によってもたらされる可能性を検証する.テロメラーゼ活性を正確に測定するために,テロメラーゼが付加したユニット数で定量化する改良法を試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究用備品はすでに整備されているので,主に分子生物学の試薬類,キット類の購入に充てたい.テロメラーゼ活性の測定のためのキットおよびプライマー,STELAとTRF法で用いるサザンハイブリダイゼーションの信号検出キット,AlkPhos Direct Labeling and Detection Systemを購入するほか,テロメラーゼや幹細胞マーカー,ガン抑制遺伝子などの発現をreal time PCRで調べるための試薬類を購入する.サンゴ幼生におけるアポトーシスによる細胞死を調べるためのキット,および幹細胞マーカーの動態をin situ hybridizationで調べるための消耗品類を購入する. また,学会参加のための国内旅費,英文校閲の費用,サンゴの採集,データ解析のための大学院生を臨時雇用する謝金も計上した.
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