本研究では、イシサンゴの高い再生能力や長寿命の細胞学的基盤を解明するために、1.サンゴは老化するのか、それとも老化を免れているのか?2.群体内のポリプの年齢は同一なのか、それとも遅く出芽したポリプほど若いのか?の2点を調べることを主目的とした。染色体の末端にあるテロメアという構造は、細胞分裂ごとに短縮し、体細胞がこれまでに何回分裂したか(細胞としての年齢)の指標となると一般的には考えられている。今回サンゴにおいても、テロメア長が発生とともに短縮するのか、群体中の部分によりテロメア長に差が見られるかについて研究を行った。テロメア長の測定は、通常用いられているTRF法と特定染色体のテロメア長を測定するSTELA法を用いた。 コユビミドリイシのテロメア長をTRF法で測定したところ、精子、プラヌラ幼生、成群体のポリプ間で有意な差が見られ、発生に伴ってテロメア長が短縮することを見出した(Tsuta et al. 2014)。少なくとも成長速度の速いミドリイシ類では、テロメア長に基づいて群体の年齢測定が可能なことが示唆された。一方、アザミサンゴの異なる発生段階(精子、プラヌラ幼生、成ポリプ)ではテロメア長に有意差は見られなかった(Tsuta and Hidaka 2013)。サンゴ種によって、発生過程におけるテロメア長短縮の速度が異なることが示唆された。また、コユビミドリイシ群体の中央部と周辺部のテロメア長を比較したところ、群体中央部のテロメア長の方が周辺部のテロメア長よりも長い傾向を示した。サンゴ群体各部の細胞の年齢を、様々な体細胞に分化するもとになる細胞、すなわち幹細胞様細胞stem-like cellsの分布や体細胞への分化などの動態により説明できるようになることが望まれる。
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