研究課題/領域番号 |
23570083
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
刀袮 重信 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (70211399)
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研究分担者 |
岡本 威明 愛媛大学, 教育学部, 講師 (20398431)
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
アポトーシスの分子機構を実行過程(最終過程)に注目して解析してきた。実行過程中で最も未解明な核凝縮について、これまでにcell-free アポトーシス法と微速度映画を用いて、核凝縮がリング形成、ネックレス、核崩壊の3ステップを忠実にたどることを発見し、そのうち2~3分で生じるリング構造を引き起こす因子(リング形成因子)を部分精製した。 昨年度、このリング形成を起こす過程で、このリング形成とヒストンH2Bのリン酸化が密接に関連することを見出した。H2BのSer14のリン酸化によってクロマチンがリモデリングした状態がリングであると考えられる。リング形成因子はこのH2BのSer14リン酸化酵素である可能性が浮上してきた。H2BのSer14リン酸化酵素が何であるかを決定するために、H2BのSer14をリン酸化する酵素として報告されているMst1の組換えタンパクを単離核にかけたが、リングにはならなかった。そこでヒト白血病細胞JurkatのMst1遺伝子をノックアウトした細胞株を作製した。この細胞からエクストラクトを精製し、単離核をリング化できるかどうかを解析しているところである。 ヒト半数体細胞を用いた研究は、本年度はマウスレトロウイルスに感染できるようにその受容体遺伝子を電気穿孔法で導入した。多数のクローンが得られたが、残念ながらすべて増殖能力が極めて低く、この目的には不適であることが分かった。 またアポトーシスにおける核凝縮を従来型の光学ならびに電子顕微鏡以外の、新しい光学システム・顕微鏡、例えば軟エックス線顕微鏡やフリーズフラクチャ電子顕微鏡法を共同研究で適用した。まだ決定的な画像、新知見は得られていないが、技術力は向上している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2つの研究方向である遺伝学的探索と生化学的探索のうち、遺伝学的探索の方向が遅れている。後者の生化学的探索によって、いくつかの重要な知見は得られたが、リング凝縮因子を同定するという最終目的には到達できていない。そして前者の遺伝学的探索は、開始したものの、遺伝子導入するだけで増殖が極端に遅くなるという、半数体であることに起因する問題に遭遇している。しかし、ヒトレトロウイルスを直接感染させる方法をとれば当初の目的を達成できると考えるので「やや遅れている」と判断した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝学的な方向として、ヒト半数体細胞KBM7にヒト由来レトロウイルス を感染させる。インテグレートした細胞のみを抗生剤存在下で増殖させる。それらから核を取り出し、部分精製したリング形成因子を作用させてリングにならない核を顕微鏡下で探し、レーザーキャプチャーで集める。レトロウイルスの配列のプライマーを用いてreverse PCRを行い、ウイルス由来のDNAが挿入された宿主側のゲノム配列を同定する。その近傍に遺伝子があるか否かをin silicoで検索する。 また生化学的な方向として、リング形成因子の候補としてH2BのSer14リン酸化酵素が考えられる。候補となるリン酸化酵素を網羅的にリストアップし、それらの遺伝子をノックアウトしたJurkat細胞株を作製し、リング凝縮に関わるリン酸化酵素を同定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していたヒト半数体細胞にマウス由来レトロウイルスを感染させる研究は、細胞自体の問題で遅れているために、次年度使用額が生じた。これは25年度請求額と合わせて、ヒト由来レトロウイルスを用いた遺伝学的研究、すなわち半数体細胞にヒトレトロウイルスを感染させ、ノックアウト細胞ライブラリーを作製する研究に使用する。ライブラリー作製時ならびにレーザーキャプチャー操作時に、さまざまな煩雑な作業が予想されるので、本年度も実験補助者が不可欠である。したがって実験補助者の人件費と、ヒトレトロウイルスシステムに必要な血清、試薬など実験用の消耗品に充てる。 他に生化学的な方向として、リン酸化酵素の同定を計画していて、それに必要な遺伝子工学的、生化学的な試薬にも充てる。
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