研究課題
本研究は、1)アンドロゲン受容(AR)遺伝子機能阻害により生じるメダカ個体レベルの表現型を分子レベルからアプローチする。2)アンドロゲン応答細胞の分化系譜解析により、"Androgenによる生命機能に必須の発生現象"について、分子生物学的基盤を明らかにするものである。昨年度の解析から明らかとなったAndrogen下流標的候補遺伝子群のmRNAを合成し、ARβ Morpholino oligo(MO)とともにメダカ受精卵に導入し、ARβ機能阻害胚の表現型回復実験を行った。ARβ機能阻害胚で顕著に発現減少したLmo2 (血液血管内皮細胞前駆細胞分化に必須の因子) mRNAを導入すると、ARβMO導入胚で見られる赤血球減少・血管走行異常が、顕著に回復した。また、Dominant-negative AR(DN-AR)の発現をHeat shock誘導するメダカを用いて、初期胚期のアンドロゲン応答期を解析した。体節形成期までの一次造血開始過程でDN-ARを発現させると、ARβMO導入胚と同様の赤血球減少・血管走行異常が誘導された。一方で、一次造血が既に開始しているst.22以降からDN-ARを発現させても異常は認められなかった。以上の結果から、メダカ初期胚中胚葉細胞からの血液血管前駆細胞分化過程にAndrogenが重要な役割を果たすことが明確となった。昨年度のARノックアウトマウス(KO)を用いた造血表現型解析から、11週齢マウスでは血液細胞分化に顕著な異常は認められなかった。しかし、ヒト更年期障害から、老齢期の造血・血液幹細胞維持機構にアンドロゲンが関与する可能性が考えられたので、老齢化AR遺伝子KOマウスにおける骨髄、胸腺、脾臓における血液幹細胞画分のFACS解析を行った。しかし、顕著な異常は認められず、哺乳類ではAndrogenは造血に必須の役割を果たしていないと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
マイクロアレイ解析より、候補となったAR標的遺伝子のmRNA導入による機能解析から、血液分化に必須の因子がAndrogenシグナルの下流に存在していることが明らかとなるなど、一次造血過程におけるARとAR下流因子との関連性が明らかとなった。一方で、AR MO導入は一過的な発現抑制であり、off-targetな効果を除外できない。既に、AR MO導入個体にAR mRNAを導入することで初期胚期の表現型が回復することを確認したが、AR tilling mutant, TALENによるAR遺伝子ノックアウト個体と表現型の比較解析が必要である。平成24年度AR tilling mutant missense系統のバッククロスを完了した。さらに、nonsense変異系統を単離することに成功した。さらにTALENによるAR遺伝子ノックアウト個体の作出を行っている。AR標的遺伝子候補の内、ARの直接的制御を受ける因子をChIP assayにより同定するために、Heat shock誘導によりARをGFPとの融合タンパク質として発現するメダカ系統を樹立したが、強制発現系では擬陽性を拾う。よって、新たにBAC cloneを用いて,ARをGFPとの融合タンパク質として発現するメダカ系統を作出する必要性が生じた。既にBAC constructを得ており、樹立に向けて導入を開始している。このように、目標達成にむけて新たに必要となったリソースについて既に準備ができており、本年度、ARと標的遺伝子との関連性が明らかになると思われる。AR遺伝子ノックアウトマウスを用いた解析を完了し、少なくとも哺乳類においては、Androgenが造血に必須の役割を果たしてないことが明らかとなった。造血発生の機構には種差があり、魚類と哺乳類では大きく異なることが予想された。
ARによる血液血管発生分化制御機構の遺伝子カスケードを明らかとする。既に、初期胚血液血管発生分化に必須の制御因子群が、Androgenの制御を受けることを示したが、これらの遺伝子発現制御に至る遺伝子カスケードの詳細はまだ明らかとなっていない。平成25年度は、ARによる直接的な制御を受ける因子の単離・同定を進める。具体的には、アンドロゲンによる血液血管分化を制御するAR標的遺伝子の発現制御領域についてAndrogen応答配列を検索、Promoterのアンドロゲン応答性をreporter assayによって解析するとともに、新たに作成中のAR-GFP BACトランスジェニックメダカ(ARをGFPとの融合遺伝子として発現する)を用い、GFP抗体によるChIP assayを行い、Androgen標的遺伝子同定を進める。AR tilling mutantの症状解析を進めるとともに、AR-GFP BAC transgenic medakaとの交配による表現型回復実験を行う。TALENによるARノックアウトメダカについても作出を進め、比較解析を行う。
平成25年度は、主にアンドロゲン標的遺伝子の同定を進めるために、reporter assay、ChIP assayに必要な試薬、消耗品を必要とする。また、BACトランスジェニックメダカ系統の作出、TALENノックアウトメダカの作出、受精卵へのマイクロインジェクション、medaka tilling系統のgenotyping、表現型解析に使用する消耗品、試薬、飼育器具を必要とする。また、論文投稿、学会発表費を必要とする。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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