研究課題/領域番号 |
23570087
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西野 浩史 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (80332477)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 昆虫 / 嗅覚 / 投射ニューロン / 触角葉 / キノコ体 / 本能行動 / 性フェロモン / ナビゲーション |
研究概要 |
夜間に活動する動物は、視覚を補うためにしばしば匂いによるコミュニケーションを発達させている。本研究では、長い触角を持ち、正確な匂い源定位能力をもつワモンゴキブリをモデル動物として、匂い受容野形成の形態・生理学的基盤を明らかにすることを目的とする。我々は先行研究から成虫オスの一次嗅覚中枢には性フェロモンを特異的に処理するための大きな嗅覚糸球体が存在し、そこから出力する投射ニューロンには触角全域に受容野を持つ1本のニューロンと触角の一部だけに受容野を持つニューロン(局所受容野ニューロン)が複数存在することを発見している。 平成23年度は当初の計画通り、新規局所受容野ニューロンの探索を行った。我々はこれまでに同定してきた4本のニューロンに加え、2本の新規局所受容野ニューロンの生理・形態学的同定に成功した。これらのニューロンは触角の長軸方向に広い受容野を持っており、その領域は既知のニューロンの受容野と一部重複していた。このことは、受容野が匂い分子の塊(フィラメント)のサイズ依存的に細分化されている可能性を示唆する。同時並行して、単一触角感覚子への色素注入により、性フェロモン糸球体への投射が細胞体の位置依存的に組織化されていることを再確認した。また、触角全域に受容野を持ち、異なる性フェロモンの成分を特異的に処理する2本の投射ニューロンの軸索終末がキノコ体においては異なる領域に分布し、側葉においては完全に重複していることを明らかにした。これらの知見を含む研究成果は5本の原著論文として国際誌に発表した。我々は今回の新規ニューロン発見により、触角の長軸方向に受容野を持つフェロモン受容性介在ニューロンについては全タイプを同定できたと考える。一方で触角前後に受容野を持つ投射ニューロンの発見には至っておらず、今後も継続して探索を続ける予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は研究初年度にあたる。初年度のメインプロジェクトは、フェロモン受容糸球体から出力する投射ニューロンの新規タイプの同定である。我々は粘り強い探索の結果、触角の長軸方向の一部に受容野を持つニューロンを新たに2タイプ同定した。これらのニューロンは樹状突起の形状、生理応答が他のニューロンタイプと明瞭に異なっており、新しい機能をもつことが強く示唆された。本発見は今後、受容野形成の神経基盤を電顕レベルや薬理学的レベルで解明していく上で極めて重要な知見となる。 一方で触角の前後に受容野を持つニューロンについては未だ発見に至っていない。このようなニューロンが存在していない可能性も十分にあるが、刺激法を改良するなどして引き続き探索を行う予定である。 関連研究については5報の原著論文をパブリッシュすることができた。そのうち2報は私が筆頭著者かつ責任著者である。 以上、研究は当初の予定通り順調に推移しており、達成度は90%と自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は当初の予定通り、匂い受容野形成の形態学的基盤についての研究を推進する予定である。まず、生理実験を継続して行い、局所受容野ニューロンのサンプルサイズを増やすことに注力したい。得られた各ニューロンタイプのデータについては既存のソフトウェアを用い、1)樹状突起の体積計算、2)樹状突起の端点検出によるシナプス領域の同定、3)軸索終末の端点検出による二次嗅覚中枢中の分布パターンの検出、4)軸索終末の体積計算を行う。これらの解析により、各ニューロンタイプの形態を特徴づける。 並行して、投射ニューロンをルシファーイエロー、求心繊維をローダミン・ビオチンで標識する。糸球体を免疫電顕法により観察し、求心繊維とニューロンの樹状突起のシナプス接続の特徴を明らかにする。我々は免疫電顕法に習熟していないため、他のグループとの共同研究により研究を推進する予定である。 これまでのデータの論文化、研究成果のアウトリーチ活動も積極的に進めていく所存である。
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次年度の研究費の使用計画 |
局所受容野ニューロンは小さいため、細胞内染色が極めて困難である。このため、平成23年度に引き続き、電気生理に習熟した非常勤研究員を謝金雇用することで、データ取得の確率を上げていくこととする。雇用費には研究費の7割程度を計上する予定である。残りは概ね均等に物品費、旅費、その他に充てる予定である。物品費についてはニューロンの標識用の蛍光色素、免疫電顕用の抗体の購入、旅費については第83回動物学会大阪大会への出席、その他については論文投稿料、別刷代の使用などへの使途を予定している。昨年度からの繰り越し分約17万円のうち、約9万円については平成23年度中に実施した研究についての謝金支払いに使用し、残り8万円については平成24年度中にスキャナーやレーザープリンターなどの物品の購入に充てたいと考えている。なお、平成24年度に購入を予定していた超低温フリーザーについては、他の研究室から借り受けことができたため、新規購入の必要はなくなったことを申し添えておきたい。
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