研究概要 |
2011年度はイモリ(Cynops pyrrhogaster)を用いて嗅細胞のアミノ酸応答に関する電気生理学的解析を行った。2011年度は東日本大震災で実験機器が損壊したため,当初計画のパッチクランプ法を用いた研究のスタートが遅れたため,平成24年度以降に予定していたEOGによる実験を並行して行った。 EOGによる実験は,アミノ酸(arginine, alanine, proline, glutamic acid)および揮発性匂い物質((isoamyl acetate, n-amyl acetate, cineole, limonene)の溶液を,露出したイモリの嗅上皮に直接投与することによって行った。その結果,アミノ酸混合溶液,揮発性匂い物質溶液の両方でEOG応答が一定の割合で生じた。その割合はイモリの生息環境の違いによって変化し,陸上生活3日目のイモリは水中生活のイモリと比べてアミノ酸に対する応答の大きさ(割合)が大きくなった。 パッチクランプ法を用いて単離嗅細胞から膜電流を記録し,アミノ酸刺激に対する応答の解析を行った。その結果,以下の知見を得た。1) アミノ酸刺激によって内向き電流が生じた。2) アミノ酸刺激によってコンダクタンスが増大した。3) I-V relationはほぼ直線で,反転電位は 0 mV 付近にあった。この結果は揮発性匂い物質に対する応答の特性と同様であった。
|
今後の研究の推進方策 |
震災の影響で実験計画が当初の順番と多少前後したが,おおむね当初の計画通り次のように研究を進める。 まず,今年度の研究結果に基づいて,アミノ酸応答のシグナル伝達経路を確かめる実験を行う。1)IP3を2次メッセンジャーとするシステムの可能性を確かめるために,2次メッセンジャー候補であるIP3そのものを電極から投与したり,DGなどIP3システムに関与する酵素の阻害剤や賦活剤を投与したりして,アミノ酸応答に対する薬物の効果を観察する。2)cAMPを2次メッセンジャーとするシステムの可能性を確かめるために,cAMPあるいはその非分解性の異性体である8-bromo-cAMP, forskolinなどアデニル酸シクラーゼの賦活剤,IBMXなどphosphodiesteraseの阻害剤の効果を調べる。3)その他の可能性を確かめるために,G蛋白質の活性化に必要なGTP,その非分解性の異性体であるGTP-γ-S, G蛋白質を不活性化させるGDP-β-Sなどを投与することによってGタンパク質の関与を確かめる。 EOG法を用いた実験では,当初計画の生息環境によるアミノ酸応答の変化についての生理学的・分子生物学的解析の他に,今年度の研究結果に基づいた次の研究を追加する。複数の匂い物質(特にアミノ酸)同士の相互作用(抑制や促進)についての現象を明らかにするとともに,そのメカニズムをシグナル伝達経路と関連させて解明する。 細胞イメージングを用いた実験は,当初計画通り学内の共同利用の機器を用いて行うが,装置の性能の限界のためにできない実験は,海外共同研究者の最先端のイメージング装置を用いて共同研究を行う計画である。
|