研究概要 |
2012年度に引き続き,イモリ(Cynops pyrrhogaster)を用いて嗅細胞のアミノ酸応答に関する電気生理学的解析を行った。昨年度は,EOG法を用いて,複数の異なった匂い物質を同時に嗅上皮に投与する実験を行い以下の結果を得た。投与する匂い物質の組み合わせによりEOG応答の大きさが変化し,匂い物質を単独で投与した時と比べて,EOG応答の大きさが変わらないもの,大きくなったもの,小さくなったものがあった。この事実は匂い物質の組み合わせにより,抑制や促進が起こることを示唆している。2013年度は揮発性匂い物質として isoamylacetate, n-amylacetate, cineole, およびlimonenを,アミノ酸として glutamic acid, alanine, arginine, および proline を用い,より系統的な解析を行った。それにより,昨年度に揮発性匂い応答で観察された匂いの相乗効果や抑制効果をより厳密に示すことができ,アミノ酸でも種類の違うアミノ酸刺激の組み合わせで,単純な加算ではなく,相乗効果あるいは抑制が生じるというプレリミナリーな結果を得た。また,これと並行してパッチクランプ法による単一嗅細胞の電気的特性およびアミノ酸応答の解析を行った。今後はアミノ酸応答のシグナル伝達機構を解明するため,さまざまな酵素のblockerやactivatorを用いてその効果を検証する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き,アミノ酸応答のシグナル伝達経路を確かめる以下の実験を行い,データをより確実なものにする。1)IP3を2次メッセンジャーとするシステムの可能性を確 かめるために,2次メッセンジャー候補であるIP3そのものを電極から投与したり,DGなどIP3システムに関与する酵素の阻害剤や賦活剤を投与したりして,アミノ酸応答に対する薬物の効果を観察する。2)cAMPを2次メッセンジャーとするシステムの可能性を確かめる ために,cAMPあるいはその非分解性の異性体である8-bromo-cAMP, forskolinなどアデニル酸シクラーゼの賦活剤,IBMXなどphosphodi esteraseの阻害剤の効果を調べる。3)その他の可能性を確かめるために,G蛋白質の活性化に必要なGTP,その非分解性の異性体であるGTP-γ-S, G蛋白質を不活性化させるGDP-β-Sなどを投与することによってGタンパク質の関与を確かめる。4)複数の匂い物質(特にアミノ酸)同士の相互作用(抑制や促進)についての現象を明らかにするとともに,そのメカニズムをシグナル伝達経路と関連させて解明する。また,今回の主目的はイモリ嗅細胞のアミノ酸応答であるが,他の種と比較するために,5)同じ両生類であるカエルやマウスなど哺乳類の嗅細胞についてもアミノ酸応答の有無を調べるほか,アミノ酸受容体遺伝子の同定を試みる。6)別のプロジェクトでイモリ嗅上皮のcDNAライブラリーを作成し,その成果が得られつつあるので,アミノ酸受容体候補遺伝子の同定を行い,免疫組織化学法を用いてそれらの局在を調べる。これに関して,アメリカネブラスカ大学のPeng教授に研究協力(または指導)を求める予定である。
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