棘皮動物はキャッチ結合組織と呼ばれるコラーゲンを主成分とする刺激によって硬さがかわる結合組織を持つ。この棘皮動物に独特の結合組織の硬さ変化の機構をタンパク質分子レベルで解明することが本研究の目的である。材料にはキャッチ結合組織のひとつであるナマコの体壁真皮を用いた。これまでの研究で我々は、強い機械的刺激に反応して著しく軟化するシカクナマコの真皮から真皮を軟化させるタンパク質ソフニン(softenin)を精製することに成功した。今年度の研究でG.P. Sensor染色によってソフニンに糖鎖が結合していることが明らかになった。ソフニンについては、さらに既知のN末端の配列以外の部分配列の解読を目指したが、そのためにじゅうぶんな量が得られなかったので、この実験は今年度は一次休止した。ソフニンの全一次構造の解読は今後の課題である。次に着手したのは、ニセクロナマコを材料にして真皮の硬さが変化する時に、その細胞外基質の微細構造に変化が見られるかどうかについての研究である。ナマコの真皮は軟らかい状態と硬い状態と、その中間の標準状態という3つの力学的に区別しうる状態をとることが以前から知られていた。硬さが異なる3つの状態の真皮を固定して電子顕微鏡で観察した結果、どの状態の真皮でもコラーゲン原繊維間をつなぐ架橋が観察された。架橋の数は、より硬い真皮で、より多かった。また単離したコラーゲン原繊維を使った実験から、軟らかい状態の真皮が標準状態まで硬化する時、原繊維同士が接合して太くなることが示唆された。原繊維同士の接合や、架橋の数の増加がナマコの真皮の硬化に関わっていると考えられる。
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