単細胞生物でのアロメトリー理論の確立を目指し,細胞重量決定の基礎となる体積の測定方法の改良を行った。従来からの回転楕円体近似に加えて,共焦点顕微鏡を用いたコンピューター・トモグラフィーによる体積の算出法を,数種のゾウリムシに対し応用したところ,回転楕円体近似と,トモグラフィー体積の間に比例関係が存在することが示された。両者の差分は,細胞咽頭の体積であることから,細胞体の体積と細胞咽頭の体積は比例関係にあることが示唆された。さらに,細胞体の長軸と短軸がアロメトリックな関係にあり,その結果,細胞表面積が体積の0.71乗に比例することが示された。これらの結果から,ゾウリムシの代謝活性と細胞体重量との間の法則性が指摘された。代謝速度が,細胞咽頭からの餌の取り込みに依存するならば,代謝速度は細胞重量に比例し,代謝速度が細胞表面からの酸素の流入によって規定されているとしたら,代謝速度は表面積に比例し,従って細胞重量の0.71乗に比例することが想定される。後者の想定は,単細胞生物におけるsurface ruleであり,従来から提唱されてきた3/4乗則の根拠となり得る。これらの理論的予測に対し,既存システムによる酸素消費の測定データと新たな体積測定法のデータを用いて検証を試みたところ,上記のふたつの予測はいずれも否定されることはなかった。測定精度を向上させ理論予測の検証の精度を上げることで,本研究の目的である単細胞生物でのアロメトリー法則の検証への方向性が確立される可能性が強く示唆された。 測定システムの精度向上のために,蛍光センサーチップを容器内に封入した,オプティカル・スライス法が利用可能なチャンバーを作成した。容器容量を減少するとともに,試料の交換が容易となるように設計を行い,工作精度の優れた,ポリスルフォンによる容器を作成し,酸素消費速度と遊泳速度の同時測定を試みている。
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