研究課題/領域番号 |
23570094
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
森下 文浩 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20210164)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アメフラシ / 神経ペプチド / D型アミノ酸 / サブトラクション / 分子生物学 / 翻訳後修飾 |
研究概要 |
軟体動物腹足類アメフラシ(Aplysia kurodai)を用いて、神経ペプチドをD型化するペプチドイソメラーゼの同定を試みた。アメフラシ腹部神経節のRUQニューロン群は、NdWFamideというD型トリプトファンをもつ神経ペプチドを発現するニューロンを含んでいる。これらのニューロンにはペプチドイソメラーゼが発現すると考えられる。そこで、RUQニューロン群と、NdWFamideを発現しないニューロン群からそれぞれtotal RNAを抽出して SMERTer pico-cDNA synthesis kitを用いてcDNAを調製し、PCR-select cDNA subtraction kitを用いてRUQニューロン特異的cDNAを得た。このcDNAをジゴキシゲニン(DIG)標識してプローブとし、別途調製したRUQニューロン由来のcDNAを対象にスクリーニングを行った。RUQ特異的と判定されたcDNAのうち、サイズが異なる44個のcDNAをクローニングして配列分析を行い、得られた配列を本に、データベース上でBLASTによる相同性検索を行った。その結果、29個は相類似する遺伝子が見つかった。これらのうち、16個はR3-R14ニューロンに発現する"Aplysia neuropeptide mRNA"であり、その他の神経ペプチド前駆体遺伝子が4個、酵素遺伝子が8個含まれていた(1つは機能不明)。一方、類似遺伝子が見つからなかったもののうち、5個は短い3’-断片であったが、それ以外の6個は比較的長いcDNAであった。これらのcDNAは、ペプチドイソメラーゼ遺伝子を含む可能性があり、今後、組換えタンパク質を作製してイソメラーゼ活性の検定を行うための基礎材料が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画より到達度がやや遅れている理由は、サブトラクションの条件設定に予想以上に手間取ったことが挙げられる。キットに添付のポジティブコントロールでは予想通りの結果が得られているので技術的な問題はないと考えている。サブトラクションに用いたアメフラシのRUQニューロン群に発現するcDNAに偏りがあり、「Aplysia neuropeptide mRNA」と呼ばれる神経ペプチド前駆体が大量に発現していることがわかった。そのため、スクリーニングによってRUQ特異的と判断されたcDNAの大半がその遺伝子であり、効率的なスクリーニングが難しかった。現在、別のNdWFa発現ニューロンからもcDNAを調製し、これを対象にスクリーニングを行っており、これらの結果を比較することで目的遺伝子の絞り込みが進むと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
NdWFa産生ニューロンに特異的に発現する機能不明の遺伝子の塩基配列がいくつか得られたので、順次、これらの組換えタンパク質を小スケールで作製し、NWFGKRペプチド(NdWFaの前駆体蛋白質の部分配列)を基質にして、TrpをD型化するかどうか、確認する。現在のところ、10種程度の組換えタンパク質を作製する必要があると想定している。組換えタンパク質の作製は、一般的な大腸菌発現系を用いる予定である。イソメラーゼ活性が認められたものは、より大規模なスケールで組換えタンパク質を作製し、イソメラーゼの酵素学的特徴づけを行う。また、塩基配列を元にin situ hybridizationに用いるプローブを作製し、イソメラーゼ遺伝子の発現部位を可視化し、NdWFa前駆体遺伝子と共発現すること、および、その他のニューロンにも発現するかどうかを確かめる。また、本計画は哺乳動物細胞にイソメラーゼ遺伝子とNdWFa前駆体遺伝子を共発現させてNdWFaを産生させることで、翻訳後修飾の過程を解析するモデル系を作ることを目指している。そのため、ペプチドホルモン産生細胞であるAtT-20細胞や神経幹細胞などの培養し、アメフラシ遺伝子の導入を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費のうち、80万円を消耗品費とし、組換えタンパク質の作製や細胞培養に用いる試薬・器具類の購入にあてる。また、研究成果を外国雑誌に投稿する際の英文校閲などの謝金等に10万円、研究成果投稿料など、その他の経費に10万円をあてる。
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