研究課題/領域番号 |
23570095
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
中川 将司 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 助教 (00212085)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 視細胞 / 信号伝達系 / 進化 / Ca2+イメージング / ホヤ |
研究概要 |
本研究の目的は、脊椎動物にもっと近縁な動物ホヤの視細胞内光信号伝達系を明らかにし、進化の過程で、脊椎動物型視細胞内光信号伝達系がどのように確立されたのかを考察することである。先行研究で、ホヤ幼生の視細胞は光刺激によって過分極応答すること、そしてエフェクタ分子はフォスホジエステラーゼであることを示唆する実験結果が得られている。しかし、信号伝達系に関与するGタンパク質、二次メッセンジャーの同定等はまだ明らかにされていない。本研究では、ホヤ幼生視細胞から発現している遺伝子を抽出し、その遺伝子プロファイルから視細胞伝達系に関与すると思われる遺伝子を絞り込み、そのタンパクの視細胞内での局在や、ノックダウン実験より、光信号伝達系を明らかにしようとするものである。 本年度は、視細胞特異的に蛍光タンパク質を発現する幼生を用いて視細胞を単離し、発現する遺伝子のcDNAを作製することを試みた。ホヤ幼生から神経細胞の培養に成功したと報じた論文に従って実験を行ったが、視細胞が存在する胴部細胞を分離することができなかった。そこで、薬剤処理後、超音波処理してみたところ、胴部の細胞を分離することができ、蛍光顕微鏡下で単離された幾つかの視細胞集団を観測することができた。 一方、生理学的手法で二次メッセンジャーの同定を試みた。アデニル酸シクラーゼ活性化剤であるフォルスコリンを投与すると、光刺激に伴う視細胞内のCa2+濃度変化は有意に減少した。この結果は、cAMPが二次メッセンジャーであることを示唆している。次に直接的に光刺激に伴う環状ヌクレオチドの濃度変化を観測するために、cAMP及びcGMP指示タンパク質を用いて、光刺激に伴う蛍光変化を観測した。しかし、どちら指示タンパク質でも光刺激に伴う有意な蛍光変化は観測されなかった。恐らく、Ca2+の濃度変化に比べ環状ヌクレオチドの濃度変化は小さい為だと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度の計画では、ホヤ幼生視細胞を単離し、視細胞に発現する遺伝子のcDNAを作製する予定であったが、そこまで至らなかった。視細胞を単離するには、視細胞を可視化した幼生が必要である。それらは、野生型ホヤの卵とトランスジェニックホヤの精子とを掛け合わせて、得られる。野生型ホヤの卵の状態は季節変動があり、調子のよい秋シーズン中、トランスジェニックホヤの調子が悪く、精子を得ることができなかった。その後トランスジェニックホヤが精子を持ちだした頃には、野生型ホヤの調子が悪くなり、まれにしか正常な幼生が得られなかった。その為、幼生から細胞を分離する条件を見出すのが精一杯であった。学生実験、講義、大学院生の指導等に忙殺されて、トランスジェニックホヤの継代時期が遅れたことが原因である。今後はトランスジェニックの管理を怠らないように注意をする。 一方、生理学的実験において、2次メッセンジャーがcAMPであることを示唆する興味深い結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
幼生から視細胞を分離する条件は、大方確立された。まずは分離された細胞群から視細胞だけを選択的に単離し、cDNAを合成する。当初の計画では、学内共通機器のフローサイトメーターを用いて、視細胞を単離する計画だったが、本機器は細胞の分取ができないことが分かった。微量な吸引量をも制御できるオートインジェクタNANOJECT II(購入予定)を用いて、視細胞集団を採取することにする。得られた細胞からmRNAを抽出し、cDNAを合成する。視細胞光伝達系に関与すると思われるGタンパク質、エフェクタ分子の遺伝子をPCR法で検索する。候補と考えられる遺伝子のノックダウン実験を行い、視細胞信号伝達に関与しているかをCa2+指示タンパク質カメレオンを用いて、光刺激に伴うCa2+濃度の変化への影響から評価する。 環状ヌクレオチド指示蛍光タンパク質を視細胞に発現させて、光刺激に伴う蛍光変化を観察してみたが殆ど変化が見られなかった。フォルスコリンを投与しても蛍光変化は現れなかったことから、殆どの指示タンパク質は環状ヌクレオチドに結合した飽和状態になっていると思われる。この指示タンパク質の蛍光タンパク質部分を除いた環状ヌクレオチド結合部位にmCherry蛍光タンパク質(CFP、YFPの蛍光波長と重ならない)を連結した融合遺伝子を作製し、各環状ヌクレオチドのキレータとして活用する。Ca2+指示蛍光タンパク質カメレオンと共にホヤ卵に導入し、各環状ヌクレオチドキレータによる、視細胞の光応答性への変化を評価することで、二次メッセンジャーの同定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度末購入予定であった画像解析ソフトの価格が、残額を上回ったので、今年度購入する。 備品費として、遊離した視細胞を採取に必要なNANOJECT II(DRUMMOND社製)購入に充てる。 消耗品には、研究に必要な試薬類やガラスプラスチック類等、野生ホヤ(NBRPから購入)、珪藻(ホヤのエサ)やホヤの飼育等に必要となる水槽の補充等、NANOJECTを取り付けるためのマニピュレータやステージ等、顕微鏡観察に必要なランプ等の購入に使用する。 謝金は、ホヤ飼育及び海水汲みに携わる学生への謝礼や、論文校閲費。 旅費は、学会参加の為の交通費。
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