研究課題
刻印付け(刷り込み)は、孵化直後の鳥類ヒナが視覚学習によって親鳥を記憶し追従する行動であり、臨界期を有する記憶のメカニズムを解析するモデルとなっているが、この早期学習の臨界期を決定する因子は不明であった。代表者らは、ニワトリヒナを用いて、甲状腺ホルモン(T3)が、脳内へ急速流入し、臨界期を開く決定因子となることを示してきた。今回、T3は神経細胞に30分以内のnongenomicな作用を引き起こすことで記憶獲得に至ることを示した。またT3が一過的に作用するとその後行う他の強化学習の習得効率が顕著に向上することを示した(メモリープライミングと命名)。さらにT3を脳内に局所的に注入することで一度閉じた臨界期を再び開けることも可能であることを発見した。また、大脳神経細胞を蛍光標識し、2光子励起レーザ走査型顕微鏡にて神経細胞の棘突起、樹状突起の形態変化を観察したところ、T3を投与されたヒナの棘突起が形態変化する起こすことを見出した。刻印付けは、ローレンツによる論文(1935)が有名だが、その現象の発見はスパルディングによる1872年の報告と言われている。その問題提起以来140年以上不明であった臨界期を開始させる決定因子としての甲状腺ホルモンの発見、早期の学習記憶のプライマー(導火薬)として働きの解明など、学術的にも高い独創性を含有する。また、特殊な記憶と考えられていた刻印付けが、T3を介して後の学習をプライミングするという考えは、これまで報告のない新しい概念の提唱である。臨界期は学習自身(刻印付け)によって開始され、さらに次の学習の臨界期の扉を開いていくという学習記憶の階層性が予想される。刻印付けに関与する分子群を利用することで、幼児期の臨界期を過ぎた学習能力の回復、脳の発達障害や記憶障害の治療、加齢による脳機能の回復を目指す研究にも新たな視点を与えることができると考えられる。
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