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2011 年度 実施状況報告書

ナメクジ嗅覚中枢におけるGABAニューロンの振動活動調節・回路再編成機構

研究課題

研究課題/領域番号 23570099
研究機関徳島文理大学

研究代表者

小林 卓  徳島文理大学, 薬学部, 助教 (50325867)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワードGABA / oscillatory network / laminar structure / olfactory center / slug / electrophysiology / plasticity / network reorganization
研究概要

陸棲の軟体動物であるチャコウラナメクジ(Limax valentianus)は、脳(中枢神経系)の細胞数が哺乳類に比べてずっと少ない割には嗅覚忌避学習が容易なので記憶・学習の研究に良く用いられてきた(Gelperin 1975)。特に、ナメクジの嗅覚/記憶を司る前脳葉(Procerebrum, PC)は層構造をしていて、前脳葉ニューロンの同期的な振動活動はにおい情報や記憶をコードする(Gelperin and Tank 1990)とされている。 一方、哺乳類の嗅球、皮質、海馬といった脳層構造で発生する振動活動(脳波)が、さまざまな認知機能に深く関係すること、そしてその振動活動の発生と周波数調節には抑制性のGABAニューロンが必須かつ重要な役割を果たすことは既知である。ナメクジの脳にもGABAニューロンが存在すること(Cooke et al. 1985)が示唆されていたが、研究代表者らによって(1)前脳葉の線維層へGABA入力があること、(2)前脳葉の細胞体層に少数GABAニューロンが存在すること、(3)GABAが前脳葉の振動周波数を変化させること、(4)単一の前脳葉ニューロンに対してGABAが興奮性の作用を示すこと等が新たに分かってきた(Kobayashi et al. 2008, 2012)。 前脳葉は多数の細胞が層状に並んでいるが、その入力・出力(感覚・運動)の神経回路は他の軟体動物同様、細胞数が比較的少なくシンプルであり、「脳層構造での活動変化がどう行動に反映されるか」を調べる上ですごく適している。これまでブラックボックスであった前脳葉内ネットワークをGABAニューロンに注目して詳細に調べることにより、振動ネットワークにおけるGABAニューロンの新しい役割だけでなく、新しい記憶獲得のメカニズムおよび戦略が解明されることが期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

H23年度中に行う予定であった研究目標、1. GABA免疫染色により、前脳葉の外からの入力線維(線維層)と細胞体層のニューロンの分布と投射様式の詳細、特に前脳葉内の領域差について調べる。 2. 前脳葉ニューロンの分散培養とCa2+イメージングを組み合わせて振動活動に対する薬理学的解析を網羅的に行う。3.単一ニューロンからのホールセル記録により詳細な生理学・形態学的解析を行い、GABAニューロンの機能的領域差について明らかにする。以上についておおむね完了し、これらの結果を原著論文にまとめてJ Neurophysiol誌(Kobayashis et al. 2012, in press)に発表した。そしてH24年度中の研究目標である、「4.前脳葉培養細胞の凝集とその領域差に関与するGABA」についてもすでに着手しており、秋には学会にて発表できるように検討中である。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断できる。

今後の研究の推進方策

1. 前脳葉におけるGABA入力線維の投射様式およびGABAニューロンの分布:ひきつづきより詳細な解析(マッピング)を行い、それを基に研究目標2~4について調べ、前脳葉内の領域差について生理学的な意義を考えて行く。2. 前脳葉ニューロンの分散培養による網羅的な薬理学的解析、および単一ニューロン記録における生理学・形態学的解析:最近の研究結果から、GABA以外のコリン作動性ニューロンや神経ペプチド含有ニューロンによる振動ネットワーク調節の重要性にも注目している。これらの系とGABAとの相互作用についても調べることにより、前脳葉内の機能的領域差についてひきつづきさらに明らかにして行く予定である。3. 前脳葉培養細胞の凝集とその領域差に関与するGABA:2の網羅的薬理学的解析をより精密に行うこと目指しながら、分散培養方法をさらに改良・検討しゆく。これまでに前脳葉ニューロンの性質にはさまざまな領域差があるとされ、申請者は実際に、分散培養ニューロンの凝集の程度に領域差があることを見出した。この領域差とGABAニューロンの前脳葉内分布との間に相関がみられることから、ネットワーク再編成とGABAとの間に新規の関係性がみつかることが期待される。本年度は特にこのネットワーク再編成に注目して調べて行く。前脳葉内の機能的領域差を明らかにすることにより、前脳葉内を流れる情報の方向性、そして可塑的変化を引き起こすための基礎的なしくみが明らかになると考える。4. においの嗅ぎ分け・嗅覚学習におけるGABAニューロンの働きとその領域差:来年度は、触角と脳のsemi-intact標本を用いることで、前脳葉ニューロンの変化とその出力パターンの変化との間の相関を調べる。そして神経振動ネットワークにおける可塑的変化と動物の行動変化との関係を結びつけたい。

次年度の研究費の使用計画

GABAに関する薬理学的な実験を行う際に必要となるGABA受容体の作動薬および阻害薬、イメージングを行うためのCa2+インジケーター、そして免疫染色を行う際の抗体等の試薬類、培養細胞や試薬を調整するためのディスポーザブル器具、そして電気生理記録用の材料は常に必要である。来年度からはsemi-intact標本による実験系を構築したいので、さまざまな簡易マニピュレータやマグネット、自作の記録チェンバーなどを作製するための材料がさらに必要である。これらの消耗品費さえあれば本研究課題の主な実験は実施可能であるが、論文投稿費用および学会費用(国内および国際学会)にも使用したい。また、解析用のコンピュータが老朽化により最近調子が悪いのでこれを新調することも検討中である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2012 2011

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Excitatory Effects of GABA on Procerebrum Neurons in a Slug2012

    • 著者名/発表者名
      Kobayashi S, Matsuo R, Sadamoto H, Watanabe S, Ito E
    • 雑誌名

      J Neurophysiol

      巻: in press ページ: in press

    • 査読あり
  • [雑誌論文] GABAergic effects on the slow oscillatory neural activities in the procerebrum of Limax valentianus2012

    • 著者名/発表者名
      Kobayashi S, Ito E
    • 雑誌名

      Acta Biologica Hungarica

      巻: 63 ページ: 217-221

    • DOI

      10.1556/ABiol.63.2012.Suppl.12

    • 査読あり
  • [学会発表] Excitatory effects of GABA on synchronous oscillatory network in the olfactory center of a terrestrial slug2012

    • 著者名/発表者名
      Kobayashi S
    • 学会等名
      第89回日本生理学会大会
    • 発表場所
      信州大学(松本)
    • 年月日
      2012年3月29日
  • [学会発表] チャコウラナメクジ前脳葉の神経振動ネットワークにおけるGABAの興奮性作用2011

    • 著者名/発表者名
      小林 卓
    • 学会等名
      第82回日本動物学会・旭川大会
    • 発表場所
      大雪アリーナ(旭川)
    • 年月日
      2011年9月21日
  • [学会発表] GABAergic effects on the slow oscillatory neural activities in the procerebrum of Limax valentianus2011

    • 著者名/発表者名
      Kobayashi S
    • 学会等名
      12th Symposium on Invertebrate Neurobiology
    • 発表場所
      Balaton Limnological Research Institute(ハンガリー)
    • 年月日
      2011年8月31日-9月4日

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公開日: 2013-07-10  

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