研究実績の概要 |
陸棲の軟体動物であるチャコウラナメクジは脳の神経ネットワークが比較的シンプルな割には嗅覚学習が成立し易く、学習・記憶の研究によく用いられてきた。特にナメクジの嗅覚と記憶をつかさどる脳部位である「前脳葉」では、ニューロンが規則正しく並び層構造を成し、ニューロン同士の同期的な振動活動、いわゆる脳波が記録できる。この前脳葉の脳波はにおい情報や記憶をコードするとされている。哺乳類の嗅球、海馬、といった脳層構造で発生する脳波が、様々な認知機能に深く関係すること、そしてこれらの同期的振動活動の発生と周波数調節には抑制性のGABAニューロンが重要な働きをすることは既知である。これまでの知見からナメクジの脳にもGABAニューロンが存在することが示唆されてきたが、その役割については注目されて来なかった。 研究代表者らはこれまでに、(1)前脳葉の神経突起層にGABAニューロンからの入力があること、(2)前脳葉の細胞体層にも少数のGABAニューロンの細胞体が存在し得ること、(3)GABAが前脳葉の同期的振動活動の周波数を変化させること、(4)前脳葉ニューロンに対してGABAが興奮性の神経調節因子として働くこと、(5)前脳葉ニューロンにおけるGABAの作用およびネットワーク再構成能力に領域差があること(Kobayashi et al. 2008, 2012a, b)を明らかにしてきた。 特に最終年度では、前脳葉ニューロンのネットワーク再構成能力に注目し、前脳葉ニューロンの分散培養から振動ネットワークが再構成されること、その同期的振動活動の駆動にコリナージックシステムが重要な働きをしていることを見出した。 これらの知見は認知機能と脳波等の同期的神経振動との関係、すなわち脳波の仕組みと役割を理解することに役立つと考える。
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