我々は前年度までに、成長途上のカタユウレイボヤの卵巣においてホヤバソプレシン遺伝子が発現していることを発見し、さらに同卵巣に対する in situ hybridization 実験により 10 μm 以下の大きさの細胞でホヤバソプレシン遺伝子が発現していることを明らかにした。この細胞の大きさおよび幾何的配置から、同細胞は間質細胞であることが想定される。この成長途上のカタユウレイボヤ卵巣においてホヤバソプレシンが発現誘導する遺伝子を特定するために、次世代シークエンサーを用いた遺伝子発現変動解析を行った。その結果、細胞増殖に関与する一部の遺伝子の発現量がホヤバソプレシン投与により上昇することが確認された。これらの実験結果から、成長期のホヤ卵巣内に存在する微小細胞において産生されるホヤバソプレシンが卵巣の形態形成に関与することが示唆された。 本研究期間内に、ホヤバソプレシン遺伝子のプロモーター領域を導入したトランスジェニックホヤの蛍光をライブで観察することにより、成長過程の段階におけるホヤバソプレシン遺伝子の発現を確認することができた。哺乳類では卵巣の形態形成が胎児期に起こることから取り扱いが難しく、そのため形態形成の詳細な分子機構はわかっていない。本研究は、生理活性ペプチドであるホヤバソプレシンが卵巣の形態形成に関与する可能性を示すものであり、卵巣形態形成の分子機構を紐解く足がかりになることが期待される。
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