平成25年度は、CTスキャナーを用いた3種のアザラシの頭頸部の非侵襲的な形態画像解析を行った。画像解析には、ゼニガタアザラシ(Phoca vitulina)、ゴマフアザラシ(P. largha)、およびクラカケアザラシ(P. fasciata)の遺体を用いた。観察した3種のアザラシでは、頸部の筋に随意的な力が働いていない場合では、頸椎は全ての種においてU字状に後方へと湾曲し、第四から第六頸椎の腹側部が頸部腹側の皮膚に近づくことで、食道や気管といった頸部器官を圧迫する状況をつくり出していた。しかし、ゴマフアザラシでは頸椎横突起腹結節が特に発達しており、頸椎の湾曲で狭くなった胸郭前口を通過するため後方に向かう頸部器官をこれが保護していた。 これまで本研究課題では、鰭脚類であるゼニガタアザラシの前後肢、および鯨類であるネズミイルカの前肢を、CTスキャナーを用いて撮影し、得られた画像を三次元立体構築することによって、それらの可動域を非破壊的に解析してきた。ゼニガタアザラシでは、足首の体軸に対する外側および内側への広い可動域が確認され、さらに体幹に埋まっている肩関節や肘関節の屈曲、伸張、そして前腕の回内などが観察された。ネズミイルカ前肢のCT画像解析では、前肢の動きは肩甲骨の移動をほとんど伴わず、肩関節の可動によってもたらされることが明らかとなった。また、肘関節の可動性はほとんど認められず、さらに前腕の回内、回外といった回旋運動も確認できなかった。 本研究における海生哺乳類の可動メカニズムの解析結果は、生物工学分野への応用に貴重なデータとなるであろう。
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