最終年度は主に白神山地周辺において水生ガガンボ類の成虫、幼虫の採集と調査を行い、えられた幼虫の飼育を行った。主に河川環境の調査とこれまで幼虫を確認できていなかった普通種の幼虫探索に力を入れた。その結果、マドガガンボ、キリウジガガンボ、ヒメキリウジガガンボなどの幼生期形態が明らかとなり、近縁種間の形態的な差異を確認することができた。これまで北米の種でのみ幼生期が解明されていたヒメコシボソガガンボ属の本邦産2種の幼虫と蛹の形態も明らかとなった。その結果、属間の区別となると考えられていた蛹の呼吸管の形態が北米産と日本産の種とでは大きく異なることが分かった。昨年、幼虫と蛹の形態が明らかになったミカドガガンボの形態について、肛門周辺のanal papillaeと呼ばれる突起の数が7本(奇数)であることがあまりに特異だとの指摘を海外の研究者から受け、確認のため調査を行い、岡山県、和歌山県、青森県の幼虫でこの突起の数、形状が安定していることを確認した。北米に分布するこの属の別種ではこのような報告はなく、世界最大の双翅目昆虫であるミカドガガンボ類の形態進化、分類を再構築する上で重要な情報であると考えられる。 日本産ヒメコシボソガガンボ属2種、キリウジガガンボ亜属3種の幼生期形態の詳細と種間の比較について、それぞれ日本昆虫学会の2015年度大会(2015年9月)、2016年度大会(2016年3月)で報告した.このほか、この研究で明らかになった水生ガガンボ類の幼生期形態と生息環境について論文の作成に着手した。 幼生期を解明できた種の数は当初目標には及ばなかったものの、本研究期間を通して得られた成果により、身近な環境にくらす中~大型の代表的な水生ガガンボ類を幼虫や蛹の形態によって同定することが可能となり、またこれらの種の生息環境が明らかとなった。
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