研究課題
約600万年前から巨大淡水湖や広大な干潟が発達していたと推定される最上川水系と近隣水域において、独自の分化を遂げたと考えられる淡水魚類の調査・研究を継続している。本年度は、シナイモツゴ近似種、アブラハヤ、ジュズカケハゼ近似種、イワナを対象として研究を行った。宮城県シナイ沼で原記載されたシナイモツゴとは形態が異なり、遺伝的に大きく分化したシナイモツゴ近似種は、新たに最上川水系上流域周辺や秋田県南部の池沼にも分布することが判明し、これまでの結果をまとめた論文とともに、未記載種または亜種としての記載の準備を始めた。昨年度新潟県からも見つかったジュズカケハゼ鳥海山周辺固有種は独立した系統であることが確認された。過去に新潟県から記載されたコシノハゼGymnogobius nakamuraeと本種を比較検討した結果、同種であることが確認され(新版「日本産魚類検索―全種の同定 第三版」掲載)、これまでの結果をまとめた論文の準備を進めている。最上川水系の各支流でイワナ集団の遺伝的構造を解析した結果、調べたうちのほとんどの集団は在来集団と見なされたが、最上川上流側集団と下流側集団間で明確な遺伝的分化はなかった。一方、最上川下流側の1支流集団では、全個体が琵琶湖周辺河川の遺伝子型に置換しており、移植放流による人為的撹乱の影響が大きかった。最上川水系との比較のために、相模川水系と金目川水系で魚類相とアブラハヤの遺伝的集団構造の調査・解析を行った結果、確認された31種のうち11種は外来種・国内移入種であった。このように、両水系は人為的撹乱の影響が大きいので、保全生物学的観点から魚類相のデータをまとめた論文を準備中である。一方、相模川水系周辺のアブラハヤの遺伝的集団構造は明らかになりつつあり、最上川水系と比較解析できる可能性が出てきた。
2: おおむね順調に進展している
主要な研究目的である最上川水系での絶滅に瀕している在来淡水魚類の調査・研究は着実に進展しており、学会発表を行い、3つの論文投稿の準備をしつつある。比較対照である相模川水系などの関東地方での調査・研究は、開発、外来種・国内移入種との競争により絶滅している種が多く、難航している。それでも、コイ科アブラハヤなどで調査・研究が進み、学会発表を実施し、論文の準備ができる段階まで進展した。
最上川水系では、コイ科シナイモツゴ近似種、コシノハゼに関する論文投稿の準備を進める。また、比較対象である関東地方では絶滅した在来種が多いので、最上川水系と関東地方の水系で共通にサンプルが確保できるコイ科ニゴイ、アブラハヤを対象として分子系統解析、集団遺伝学的解析を進めることにする。これまでの研究を通して、水系の形成過程が魚類相形成に与える影響を総合的に考察する。
汎用の遺伝子解析用試薬、器具、調査旅費、データ解析のためのアルバイト謝金、学会発表のための出張旅費、論文投稿のための英文校閲費などに予算を使用する予定である。
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