研究課題/領域番号 |
23570109
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
昆 健志 東邦大学, 理学部, 博士研究員 (10401192)
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キーワード | 幼形進化 / 魚類 / 隠蔽種 / 多様性 / 種分化 / 分子系統 / Supermatrix法 |
研究概要 |
本課題は極端な幼形進化を示すシラスウオ類の多様化プロセスを明らかにするために,(1) インド-太平洋産標本を収集して分布域全域をカバー,(2) Supermatrix解析による隠蔽種の探索と次世代シーケンサーを利用したミトゲノムによる系統樹構築,(3) 核ゲノムを併用した交雑の検出,(4) 分岐年代推定および分岐パターン解析と進める. 上述の計画のうち,平成24年度は (1) ~ (3) をメインに進める予定であったが,そのうちの (1) では,ニューカレドニア(南太平洋)とモーリシャス(インド洋)およびドバイ(インド洋)での採集を試み,前2箇所での採集に成功した.ニューカレドニアでの採集成功により,太平洋の主な分布域を網羅できたことになる.また,モーリシャスの採集成功により,はじめてDNA解析可能な標本をインド洋より入手が出来たことになる.それらの (2) である分子系統解析したところ,各地点での複数種の存在が確認できた.この結果,シラスウオ類の種多様性を明らかにするためには,さらなるサンプリングの必要性が示唆された. 次に (2) のうちの次世代シーケンサーを利用した研究では,本課題申請後から新しい手法が次々と発表され,それら最新の技術を 導入するために研究協力者らと検討・予備実験を進めており,この結果は平成25年度の実施に反映される予定である.また,シラスウ オ類を含めたハゼ亜目の分子系統解析は,前年度に引き続き採集とサンガー法を用いた方法でも並行して進めている.(3) の核ゲノムマーカーによる実験は,引き続き試みている最中である.(4) の分岐パターン解析では,特異的なシラスウオ類との比較のために,「普通魚」であるタカサゴ類や隠蔽種の存在が推定されるスナハゼ類などの分子系統解析を進め,その成果を学会にて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の計画の主要部分のうち,(1) インド-太平洋産標本を収集して分布域全域をカバーするということに関しては,海況や現地協力者との相談により若干の計画変更があったが,南太平洋のニューカレドニアとインド洋のモーリシャスでの採集を成功することが出来,太平洋においては一通り採集を終えることが出来た.これに続いて平成25年度もインド洋で標本収集を進めれば,計画の進行ペースとしては問題がないと言える.(2) Supermatrix 解析による隠蔽種の探索と次世代シーケンサーを利用したミトゲノムによる系統樹構築に関しては,ミトコンドリアや核遺伝子の部分塩基配列の決定は随時進めており,この点では問題がない.ただし,次世代シークエンサーを用いた塩基配列の決定は,より安価で迅速な方法を確実に成功させるために,繰り返し予備実験を進めている段階である.しかしながら,平成25年度に実験条件を調整した新たな方法を適用した確実性の高い実験の実施が決 まっており,実際に実施すると短期間で結果を出すことが可能であることから,この点でも大きな問題がないと言える.以上のことから,研究計画を変更する必要があったが,研究全体はより確実に成果を出せる計画として進めることが出来ているので,概ね順調に進展していると本研究課題は評価される.
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今後の研究の推進方策 |
本課題はシラスウオ類の多様化プロセスを明らかにするために,(1)インド-太平洋産標本を収集して分布域全域をカバー,(2) Supermatrix解析による隠蔽種の探索と次世代シーケンサーを利用したミトゲノムによる系統樹構築,(3)核ゲノムを併用した交雑の検出,(4)分岐年代推定および分岐パターン解析と進める. 本年度は研究期間の最終年度にあたり,これら計画を完遂するために,採集はインド洋のモルジブなどを候補地として全分布域の網羅を目指し,ミトゲノムおよび核ゲノムの部分塩基配列決定は随時行い,外群を含めてミトゲノム全塩基配列を決定しデータセットを充実させる.そして,揃えたデータセットを基にした頑健な系統樹構築,それを基にした分岐年代推定および分岐パターン解析を行う.分岐パターン解析では,他のハゼ亜目魚類やシラスウオ類と同様にサンゴ礁域に分布するタカサゴ類をはじめとしたハゼ亜目以外の多くの魚類とも比較を行い,幼形進化種の分岐パターンの特徴を明らかにする.さらにDNAデータバンクの大量登録データを活用・統合したハゼ亜目全体での解析(Supermatrix解析)を実施し,成果の公表を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度である平成25年度は,(1) インド洋産標本の収集(2箇所を予定),(2) 次世代シーケンサーを使ったミトゲノム全長塩基配列の決定および (3) ミトコンドリアおよび核DNAマーカーを用いた実験に研究費を使用する.(4) の解析に関しては既に購入した現有パソコンでの対応予定である.当初の平成24年度の計画では,DNA解析もメインにした計画であったが,その24年度中に最新の技術を取り入れるための予備実験を繰り返した結果,元の計画よりバージョンアップした方法でのDNA解析をする必要が生じた.従って25年度に24年度の実験予定分を実施することとし,その実験関連の費用も25年度に繰り越して使用することにした.採集は,琉球列島やインド洋のモルジブを候補地として旅費を計上している.また,本研究の成果を学会等で発表する予定であり,そのための旅費も計上している.
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