本課題は極端な幼形進化を示すシラスウオ類の多様化プロセスを明らかにするために,(1)インド-太平洋産標本を収集して分布域全域をカバー,(2)スーパーマトリクス解析による隠蔽種の探索と次世代シーケンサーを利用したミトゲノムによる系統樹構築,(3)核ゲノムを併用した交雑の検出,(4)分岐年代推定および分岐パターン解析と進めてきた. 研究期間の最終年度である平成26年度は,(4)の分岐年代推定および分岐パターン解析をシラスウオ類を含めたハゼ亜目全体で進め,さらにシラスウオ類がハゼ亜目のなかで系統的にどのようなプロセスを経て,遊泳性の幼形進化的形態を獲得してきたかを明らかにするための解析を進めた.平成25年度においても(4)の解析を既に進めていたが,平成26年度では新しく開発されたプログラム(BAMMなど)を導入することにより,より一層信頼度の高い結果を得ることが出来た. 最終年度を含めた結果から以下のことが明らかになった.ハゼ亜目でツバサハゼ科+ドンコ科クレードとその他のハゼ類の分岐が65Mya前後(K/Pg境界付近)と最も古く,初期のハゼ亜目は汽水性であった可能性が示唆された.ゴビオネルス科とハゼ科+スナハゼ科は55Mya前後に分岐し,初期のハゼ科も汽水性であった可能性が高かった.また,気候が温暖だった50Mya前後には,ハゼ科において海を中心とした生活への移行と多様化が始まったことが推定された. シラスウオ類はハゼ科に含まれ,姉妹群はタンザクハゼ属であった.両者の分岐年代は約34Myaと推定された.タンザクハゼ属を含むいわゆるクロユリハゼ科(本研究でのハゼ科の一部)は遊泳性であり,シラスウオ類はそれら遊泳性ハゼ類から幼形進化を遂げたことがわかった.さらにシラスウオ類は,温暖だった21Mya頃から爆発的な種分化が開始されたことが示唆された.
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