パラオ諸島全域において陸産貝類の調査を実施し、得られた資料の分類学的再検討を行うとともに、過去に採集された標本や記録との照合を行って生息状況の時間的変化についても検討した。 その結果、少なくとも21科174種の陸貝がパラオ諸島から認識された。これらの内、移入種は5種、太平洋諸島の他の地域にも分布する広域分布種が7種、由来の不明な種が2種で、残りの160種が固有種であると考えられる。 固有種の中で最も種数の多いグループがゴマガイ科であり、90種以上の固有種に分化しており、パラオ諸島内で適応放散を起こしていることが確認された。パラオ産ゴマガイ類は19種(亜種)が命名されているのみで、様々な属(亜属)に分類されるなど、分類学的研究が遅れていた。そこで、貝殻のみならず解剖学的形質にも注目して属を再定義し、パラオ産ゴマガイ類を2属とする新分類体系を提唱した。また、既知種10種を再記載するとともに、32新種(亜種)を記載した。さらに、カサマイマイ科やエンザガイ科などにおいても、少なくとも11種の未記載種があることが判明した。 1970以前に採集された標本や記録と、現在の生息状況を比較したところ、ペリリュー島およびアンガウル島では固有種の絶滅が起きていることが確認された。これらの島は太平洋戦争の激戦地であり、戦争前後の自然環境の破壊が絶滅の原因であると考えられた。一方、他の島では絶滅の直接的証拠がなく、多様な固有陸貝相が維持されていると考えられる。特に、科レベルで絶滅が危惧されているポリネシアマイマイ科、エンザガイ科の生息が確認できたことは注目に値する。各種の生息状況や分布範囲、生息環境等を比較した結果、石灰岩地の固有種で分布域の狭い種(特に小さな島に生息する種)の絶滅リスクが高いと推定された。
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