研究課題
東洋区のインドシナ―スンダ亜区間での地理的分断により分化したと考えられる陸上無脊椎動物(昆虫および陸産貝類)について、形態による分類学的再検討と分子系統解析を行い、両亜区間での動物相の遺伝的分化と形成過程を明らかにし、両亜区間の生物地理学的境界の成立要因を解明することを目的とした。また両亜区間での分岐年代の推定を行い、生物地理学的情報から地史を復元することで、他分野にも寄与することも目指した。 具体的に平成23年度は、外群も含めてDNAサンプルがほぼ揃っているチョウ・ガ類(アゲハチョウ科、タテハチョウ科、シジミチョウ科、カイコガ科、ヤママユガ科)のmtDNAのCOI、ND5と核のEF-1alphaとTpi、バッタ類(カマドウマ科)のmtDNAのCOIと16SrRNA、陸産貝類(ゴマガイ科)のND1、ND4L、CytBをPCR法で増幅し、塩基配列を決定して、各地域集団間、亜種間、種間の遺伝的分化や系統関係を解析した。 研究材料の収集のための調査は、インドシナ―スンダ亜区間の境界となるマレーシア半島部とランカウイ島で現地研究者と各1回実施し、サンプルを充実させた。これらのサンプルの分類学的特徴も同定、撮影した。特にこれまで謎の多かったキララシジミ亜科の幼生期発見は、植生分化による種分化の影響を考える上で非常に重要な研究情報となる。 ここまでの研究成果として、チョウ・ガ類ではタテハチョウ科Euthalia属とシジミチョウ科Arhopala属、カイコガ科Trilocha属の分子系統と形態学的研究、シジミチョウ科Tongeia属とセセリチョウ科2属の形態学的研究、カンボジア産チョウ類のインベントリー、マレーに侵入した外来種等に関する発表、出版を行なった。また、陸産貝類(ゴマガイ科)では日本貝類学会にて途中経過を連携研究者が発表した。
2: おおむね順調に進展している
研究材料の形態学的研究については特に大きな障害もなく、分子系統解析に関してもこれまで用いたサンプルの範囲で解析する遺伝子領域を変更しなければならない状況もなく、極めて順調に進んでいる。また、これらの研究成果の執筆や投稿、出版などについても当初の計画以上の順調さで進展している。 一方、中東や北アフリカでの情勢不安による航空料金のサーチャージ高騰および東日本大震災の影響などによる交付額の残額支払(第2回目支払分)の延長により、研究材料収集や分布把握を目的とする海外調査は、当初の予定よりも少し控えた経緯があったため、サンプル数がやや不十分なグループでは進展が少ない。 とはいえ、全体的な研究の進み具合は順調にきており、このペースを守りながら今年度も研究に邁進していきたいと考えている。
引き続き現地研究者との連携・協力により研究材料の収集および分布調査に取り組む。昨年度の現地調査は当初の計画よりも少なかったため、この点を重点的に進める。分子系統解析はこれまでのデータを見直しながら進めて、25年度前半までに解析を終了させる。 3年間で得られた成果を統合して、インドシナ―スンダ亜区間で生じた無脊椎動物相の形成過程の全体像を構築する。多数の分類群について両集団間の分岐年代を算出し、分断時期や陸橋形成時期を推定する。得られた生物地理学的情報をこれまでに知られている地史データと対応させて古地理を再検討する。また、両地域集団間の遺伝的距離と共通する分類群の頻度を総合した分化時期類似度を導き出し、生物地理学的境界の位置と成立時期を復元する。 さらに本研究を総括した内容について、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行うとともに、論文の投稿、出版を進める。一方、代表者が所属する博物館のHP内にあるウェブミュージアム上に研究成果をアップするとともに、企画展およびモバイル展などによる展示企画を進めることで、本成果を社会に広く公開発信する。
昨年度に得られた結果を元にして、カバーしきれなかった重要な分類群のサンプル収集等を行なう。また、インドシナ―スンダ亜区間を横切る境界線の南北に位置するタイ側とマレーシア側で各1回の現地調査を実施する。現地調査でかかる経費は前年度の当初の計画とほぼ同額となる。 得られたサンプルは前年度と同様の方法で研究、解析し、必要に応じて増幅する遺伝子領域を変更し、適切な領域を見つけ出す。分子系統解析に必要な経費(雇用も含む)やその他の消耗品費は前年度とより少し抑えた額となる。 ここまでの成果を学会発表するとともに、一部のデータに関しては論文執筆、出版を進める。特に未記載種(亜種)があればこの記載にも取りかかる。これらの経費は前年度と同じ額である。
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